端午節、正体がヘビの者にとって危険な節季
白娘子フォークロア(4)端午節の危難
(端午節@白蛇伝説)
鎮江のペーロン |
雨の西湖で出会ったとたん、片時も離れられなくなった許仙と白娘子。
はやい、はやい、これははやい。
1週間ほどでもう、当り前のように夫婦になってしまいました。
夫婦になってから住まい探しと、それから許仙は職探し。
このまま姉夫婦の家で居候という訳にもいきません。
うーん、勢いがあります。
少しは考えてから行動しろよ、と言いたくなりますが。
行動してから考える、そういう若い勢いってのも大切な気がします。
協議の結果、鎮江でお薬屋さんを始めることになりました。
鎮江(ツェンチャン)は、蘇州の向こうの長江沿いにある城市です。
昔の物流は水運が主力でした。
北京から杭州まで京杭大運河という高速水路が、長江、淮河(わいが)、黄河を横断して通っていました。
鎮江はその、長江の南側の湊(みなと)という重要な城市になります。
白娘子と許仙は、この鎮江の街でお薬屋さんを開業しました。
実は許仙の父親が薬屋さんで、許仙の親類にも薬屋さんが有ります。
許の一族は薬屋さん一族なので、だから心得は有ります。
ちなみに許仙のお姉さんのお家は、旦那さんが官僚さんですから、ちょっと毛色が違います。
許仙が製薬で白娘子が処方、若い夫婦の薬屋さん、小青も一緒にお手伝い。
いろんな薬を取り揃えました。
門前の看板には、
保 和 堂
貧乏人にも処方します
(お薬代無用です)
うーん、利益はお金持ちから確保して、貧乏人を呼び集めて薬店を流行らせる。
保和堂薬舗 |
このビジネスモデルが巧くいけば好いのですが。
薬店を訪れてみると、若い女性がふたりで切り盛りしている。
中を覗いてみると、若者が真面目な顔でシコシコ薬を作っている。
なんだか華やかな感じのする薬屋さん、訪れるだけで病気が良くなるような気がします。
それになにしろ、1000年修巧の白ヘビの処方ですから良く効きます。
発病して薬を貰いにくる者、治ったといっては礼にくる者。
朝から晩まで人の出入りが引っ切りなしで、入口の敷居が人に踏まれてペッタンコ。
ドアが閉まらなくなってしまいました。
もうこのまま、バリアフリーにしてしまいます。
端午節の習俗 |
端午節の早朝、白娘子と小青はそわそわしています。
ふたりにとって、今日は大変な悪日です。
端午節の起源はこれまた古い。
おそらくは農耕が始まった頃からの習俗です。
5月は別名『悪月』とも『毒月』ともいい、ちょうどこの時分から疫病や害虫が発生し始める。
そこで消毒、除疫という意味で、家の門口に菖蒲の葉を挿す、雄黄という薬を白酒に溶いた薬酒を少し飲む、或いは子供の頭や顔に塗る、部屋に撒く、などといった風習が始まりました。
花線という、カラフルな組紐を手首に巻いたり、香袋を携えたりもします。
そして雄黄は、毒虫や蛇毒の薬でもあります。
雄黄は神農本草経にある鉱物薬で主成分は硫化砒素、薬というよりは猛毒。
正体がヘビの者にとっては、一緒に調伏されかねない、それは危険極まりない代物なのです。
本草綱目によると、「銅と煉成して金。人が佩戴して鬼神も寄らず。山林に入っては虎熊も降す」。
もう、ヘビなんて目じゃない。
2階の寝室で密談をする白娘子と小青。
「小青(シャオチン)、今日は5月の端午よ、いいわね」
「はい、お姐さん」
雄黄 |
「午(ひる)の三刻(11時-12時)が一番危ないわ
あなたは、深山に身を潜めていなさい」
「 お姐さんは? 」
「私は千年修巧の白ヘビよ、大丈夫」
「一緒に隠れた方が良いんじゃない?」
「ふたりとも消えたら、怪しまれるわよ」
少し考えて小青、「気をつけてよね、お姐さん」。
そう言って、青煙になって、窓から退避していきました。
そこへ許仙、小青を呼んでいます。
「おーい小青よ、もう店じまいしちまおう
みんなでペーロン船見に行こうよ」
階段から顔をだして、白娘子。
「小青なら花線を買いにやったわよ
ペーロンなら、あんた行ってきなさいよ
チマキ持ってくの忘れちゃダメよ」
許仙が寝室までやって来て、
鎮江に来て初めての端午節だ、長江のペーロン船見ないでどーする、凄い人出だ2人で行こう、なんて言います。
ちょっと心が動いた白娘子ですが、
「ダメですよ、私は
行ける体じゃありません」
あなた行ってらっしゃい、早く帰って下さいね。
聞いた許仙、自分もイスに座って、白娘子の脈をとって、
「病気なんかないって、変なこと言うなよ」
「病気なんて言ってません、ダメなの、体が」
「 え 」
「だから、・・・、ね」
とお腹をさする白娘子。
自分が父親になると知った許仙、驚いてイスごと3尺跳びあがりました。
これは、長江のペーロン船どころじゃありません。
端午節は女房と一緒に、家で過ごすことにしました。
お昼時になっても、小青はまだ帰らない。
どこへ遊びに行っちゃったんでしょう?
許仙、はりきって台所に立ちます。
チマキを蒸し器で温めて、
老酒に雄黄を溶き混ぜて、
それだけなのですが。
でも何事かを成し遂げたような気分の許仙、老酒をまるまる1本使っちゃいました。
女房の寝室に持ってきて、雄黄酒のお猪口を差し出します。
つい思わず、受けてしまった白娘子。
うぷっ
肌で感じる違和感、息ができない、顔をそむけながら、
「いけません、飲めませんよ私は
チマキだけ頂きます」
「端午節じゃないか、今日は
飲めずとも、ひと口だけ口に含む
それだけの習わしだよ」
「ダメですよ、雄黄は
お腹に子供があるのに」
聞いた許仙が笑い飛ばす。
「やだなあ、ウチは3代続く薬店だ
僕だってそうさ
雄黄で厄疫退散、子供も安胎、子供の分と2杯飲んでもいいくらいだよ」
子供は特に病気に弱い、疫病退散の端午の風習ですが、子供には特に気を使います。
いくら風習でも、現代ではさすがに本物の雄黄を使ったりはしません。
雄黄酒用のニセモノの雄黄があります。
飲んだりもしませんが、母親が雄黄酒に指を漬けて子供の額に『王』の字を書く。
母親が丹精込めて作った香袋を子供に持たせる。
そんな風習は、今でも結構残っているようです。
疑われるのが怖い白娘子。
千年修巧の真仙、それがどこまで利くのか?
後ろ向きで崖から飛び降りるような気がします。
ナムサン(南無阿弥陀仏×3)、ひと口飲みました。
だがしかし、やはり仏は白蛇を救ってはくれませんでした。
毒気がたちまち体を巡る。
瞬間的に、《耐え切れない》、それが分かりました。
体の外に、何かが流れていく。
お猪口が落ちて割れる音。
白へびニョロッ |
心拍が止まりそうに驚き、女房に手を延ばす許仙。
白娘子、手の中で崩れていく。
ぬるっ
手の中の、蛇、白くて長い、
どくん
大きく心臓が脈を打ち、心肺停止して倒れ伏す許仙。
次のお話し:白娘子フォークロア(5)盗仙草
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