2018-03-28

白娘子フォークロア(4)端午節の危難

 端午節、正体がヘビの者にとって危険な節季  

 白娘子フォークロア(4)端午節の危難  

 (端午節@白蛇伝説) 


鎮江のペーロン

雨の西湖で出会ったとたん、片時も離れられなくなった許仙と白娘子。

はやい、はやい、これははやい。

1週間ほどでもう、当り前のように夫婦になってしまいました。


夫婦になってから住まい探しと、それから許仙は職探し。

このまま姉夫婦の家で居候という訳にもいきません。


うーん、勢いがあります。

少しは考えてから行動しろよ、と言いたくなりますが。

行動してから考える、そういう若い勢いってのも大切な気がします。

協議の結果、鎮江でお薬屋さんを始めることになりました。


鎮江(ツェンチャン)は、蘇州の向こうの長江沿いにある城市です。

昔の物流は水運が主力でした。

北京から杭州まで京杭大運河という高速水路が、長江、淮河(わいが)、黄河を横断して通っていました。

鎮江はその、長江の南側の湊(みなと)という重要な城市になります。


白娘子と許仙は、この鎮江の街でお薬屋さんを開業しました。

実は許仙の父親が薬屋さんで、許仙の親類にも薬屋さんが有ります。

許の一族は薬屋さん一族なので、だから心得は有ります。

ちなみに許仙のお姉さんのお家は、旦那さんが官僚さんですから、ちょっと毛色が違います。


許仙が製薬で白娘子が処方、若い夫婦の薬屋さん、小青も一緒にお手伝い。

いろんな薬を取り揃えました。

門前の看板には、



    保 和 堂    


   貧乏人にも処方します  


   (お薬代無用です)   


うーん、利益はお金持ちから確保して、貧乏人を呼び集めて薬店を流行らせる。

保和堂薬舗

このビジネスモデルが巧くいけば好いのですが。


薬店を訪れてみると、若い女性がふたりで切り盛りしている。

中を覗いてみると、若者が真面目な顔でシコシコ薬を作っている。

なんだか華やかな感じのする薬屋さん、訪れるだけで病気が良くなるような気がします。

それになにしろ、1000年修巧の白ヘビの処方ですから良く効きます。


発病して薬を貰いにくる者、治ったといっては礼にくる者。

朝から晩まで人の出入りが引っ切りなしで、入口の敷居が人に踏まれてペッタンコ。

ドアが閉まらなくなってしまいました。

もうこのまま、バリアフリーにしてしまいます。



端午節の習俗

端午節の早朝、白娘子と小青はそわそわしています。

ふたりにとって、今日は大変な悪日です。


端午節の起源はこれまた古い。

おそらくは農耕が始まった頃からの習俗です。

5月は別名『悪月』とも『毒月』ともいい、ちょうどこの時分から疫病や害虫が発生し始める。

そこで消毒、除疫という意味で、家の門口に菖蒲の葉を挿す、雄黄という薬を白酒に溶いた薬酒を少し飲む、或いは子供の頭や顔に塗る、部屋に撒く、などといった風習が始まりました。

花線という、カラフルな組紐を手首に巻いたり、香袋を携えたりもします。


そして雄黄は、毒虫や蛇毒の薬でもあります。

雄黄は神農本草経にある鉱物薬で主成分は硫化砒素、薬というよりは猛毒。

正体がヘビの者にとっては、一緒に調伏されかねない、それは危険極まりない代物なのです。

本草綱目によると、「銅と煉成して金。人が佩戴して鬼神も寄らず。山林に入っては虎熊も降す」

もう、ヘビなんて目じゃない。


2階の寝室で密談をする白娘子と小青。


「小青(シャオチン)、今日は5月の端午よ、いいわね」


「はい、お姐さん」


雄黄

「午(ひる)の三刻(11時-12時)が一番危ないわ

 あなたは、深山に身を潜めていなさい」


「 お姐さんは? 」


「私は千年修巧の白ヘビよ、大丈夫」


「一緒に隠れた方が良いんじゃない?」


「ふたりとも消えたら、怪しまれるわよ」


少し考えて小青、「気をつけてよね、お姐さん」

そう言って、青煙になって、窓から退避していきました。

そこへ許仙、小青を呼んでいます。


「おーい小青よ、もう店じまいしちまおう

 みんなでペーロン船見に行こうよ」


階段から顔をだして、白娘子。


「小青なら花線を買いにやったわよ

 ペーロンなら、あんた行ってきなさいよ

 チマキ持ってくの忘れちゃダメよ」 


許仙が寝室までやって来て、

鎮江に来て初めての端午節だ、長江のペーロン船見ないでどーする、凄い人出だ2人で行こう、なんて言います。

ちょっと心が動いた白娘子ですが、


「ダメですよ、私は

 行ける体じゃありません」


あなた行ってらっしゃい、早く帰って下さいね。

聞いた許仙、自分もイスに座って、白娘子の脈をとって、


「病気なんかないって、変なこと言うなよ」


「病気なんて言ってません、ダメなの、体が」


「   え   」


「だから、・・・、ね」


とお腹をさする白娘子。

自分が父親になると知った許仙、驚いてイスごと3尺跳びあがりました。

これは、長江のペーロン船どころじゃありません。

端午節は女房と一緒に、家で過ごすことにしました。


お昼時になっても、小青はまだ帰らない。

どこへ遊びに行っちゃったんでしょう?


許仙、はりきって台所に立ちます。

チマキを蒸し器で温めて、

老酒に雄黄を溶き混ぜて、

それだけなのですが。


でも何事かを成し遂げたような気分の許仙、老酒をまるまる1本使っちゃいました。

女房の寝室に持ってきて、雄黄酒のお猪口を差し出します。

つい思わず、受けてしまった白娘子。


 うぷっ


肌で感じる違和感、息ができない、顔をそむけながら、


「いけません、飲めませんよ私は

 チマキだけ頂きます」


「端午節じゃないか、今日は

 飲めずとも、ひと口だけ口に含む

 それだけの習わしだよ」


「ダメですよ、雄黄は

 お腹に子供があるのに」


聞いた許仙が笑い飛ばす。


「やだなあ、ウチは3代続く薬店だ

 僕だってそうさ

 雄黄で厄疫退散、子供も安胎、子供の分と2杯飲んでもいいくらいだよ」


子供は特に病気に弱い、疫病退散の端午の風習ですが、子供には特に気を使います。

いくら風習でも、現代ではさすがに本物の雄黄を使ったりはしません。

雄黄酒用のニセモノの雄黄があります。

飲んだりもしませんが、母親が雄黄酒に指を漬けて子供の額に『王』の字を書く。

母親が丹精込めて作った香袋を子供に持たせる。

そんな風習は、今でも結構残っているようです。


疑われるのが怖い白娘子。

千年修巧の真仙、それがどこまで利くのか?

後ろ向きで崖から飛び降りるような気がします。


ナムサン(南無阿弥陀仏×3)、ひと口飲みました。


だがしかし、やはり仏は白蛇を救ってはくれませんでした。


毒気がたちまち体を巡る。

瞬間的に、《耐え切れない》、それが分かりました。

体の外に、何かが流れていく。


お猪口が落ちて割れる音。


白へびニョロッ

心拍が止まりそうに驚き、女房に手を延ばす許仙。

白娘子、手の中で崩れていく。


 ぬるっ 


手の中の、蛇、白くて長い、 


 どくん 


大きく心臓が脈を打ち、心肺停止して倒れ伏す許仙。






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