2018-03-29

白娘子フォークロア(5)盗仙草

 お願いよお爺さん、あの人を助けてよ、崑崙山へ奔る白娘子  

 白娘子フォークロア(5)盗仙草  

 (白娘子)



時間の経つのが遅い、深山に身を隠す小青、白娘子が気に懸かる。

イヤな感じが頻りにします。


太陽が中天に差し掛かり、少し傾いた頃、小青は早々と家に戻ってみました。

誰もいない、階上の白娘子の寝室、ふたりが床に倒れていました。


小青は白娘子を揺すりながら、


「姐さん、目を開けて、はやく

 どーしたのよ、これ、ちょっと見てよ!」


目を覚ました白娘子は慌てて許仙を覗き込み、


「・・・死んでる・・・」


へたり込んで、泣き始めました。


「私が・・・ヘビだから・・・ごめんなさい・・・

 ・・・あなた・・・雄黄なんか・・・もう・・・」


小青、再び白娘子を揺すりながら、 


「ちょっと、しっかりしてよ

 早く手を打たなきゃ、姐さん」


白娘子がもう一度、恐る恐る許仙の脈を診ると、


やはり、脈は無い。

呼吸も止まっている。

体温が低下し始めている。

何かが許仙の体から抜け出そうとする。


それを許仙の体に押し戻し、

許仙の口に、思い切り息を吹き込み、

胸の真ん中を骨が折れそうなほどに、思い切り叩く。


 とく・・  


かすかに応える脈、しかし、すぐにまた止まってしまいます。


小青を縋るように見る白娘子。


「お姐さん、救命仙丹は?」


「ないわよ、そんなもの」


「じゃあ・・・」


崑崙山(こんろんさん) 


「私、行ってみる」


白娘子は白雲に乗り、人目もはばからず窓から飛び出していきました。


スピードを上げるほどに、足許の雲が散っていきます。

構わず加速、重たい、高度を上げる、気温が下がる、

時速1100km/時を超えたあたりで激しい衝撃、音速を超え衝撃波が発生。

足許の雲が1/3ほど、飛び散った。

そこからは、凄い勢いで雲が減っていきます。


崑崙山の山頂上空、白娘子の雲はもうほとんど残っていませんでした。

山頂に降り立ち見あげてみると、船の引波(ひきなみ)のように雲が漂っています。


大急ぎで薬草園に駆け込んで、有りました、紫色の小さな霊芝仙草。

白娘子が慌てて摘み取っていると、


 ごるるる


天から1羽の白鶴が舞い降りて、霊芝仙草を盗み取っている白娘子に襲いかかってきた。

長い頚(くび)をのばして攻撃しようとする白鶴。

その後ろから、杖が伸びてきて鶴の頚を引っ掛けてヒョイと引き戻した。


 ぐえっ 


身を翻して見ると、白ヒゲをさすりながら南極仙翁が立っていました。

躰の力が抜け、南極仙翁を見て思わず涙ぐむ白娘子。

南極仙翁に駆け寄り、胸倉つかんで、 猛然と揺すりながら、


わーん、おじーさーん

 あの人が死んじゃうよー

 ごめんなさーい、私が悪いのよー

 助けてよー、お願いよー

 霊芝仙草ちょうだいよー

 ちょっとでいいのよー

 わーんわーん、わーん、・・・・・・」


あわわわわ、ワンワンと白蛇が犬じゃあるまいし、と南極仙翁。


「かまわんさ、持って行きなされ、ほら早くするんじゃぞ」


「ありがとう、・・・・おじーさん、

 あのね、・・・チョット貸してね」


と白娘子、南極仙翁の雲に乗ってすっ飛んでいきました。


ありゃりゃ、南極翁ほどの仙人でも、母親になる女性には敵わない。



戻ってみると、小青が汗だくになって必死で許仙の心臓マッサージを続けていました。

ヘビの汗だから、部屋の中がなんだか生臭くなっています。

大急ぎで霊芝仙草を煎じて、許仙に与えました。


息を吹き返す許仙、白娘子をじっと見つめる。


 蛇の匂い?


突如、恐怖感に駆られた許仙は階下に駆け降り、

帳場に閉じこもってしまいました。


そのまま、出てきません。

1日、2日、3日目の夜。


おそるおそる帳場を覗き込む、白娘子と小青。


「あんた、3日もそこでナニしてんのよ」


「あああ、伝票整理がたまってるから

 帳簿もちゃんと付けとかないと・・」


許仙、帳簿を手許に引き寄せる。


「帳簿付け?、ああそうなの?

 で、手に持ってんのは何よ」


え?、と手許を見ると、それはカレンダー


「あわわ、いや、確定申告はいつだっけ?」


白娘子たちにしても、恐る恐る帳場を覗き込んだ訳ですが、

許仙の狼狽ぶり、おもしろ過ぎました。


思わず吹き出す、白娘子と小青。

笑いを必死で押し隠しながら、白娘子は許仙に詰め寄った。


それで本当はどうしたのよ、アンタッ


女性ふたりに詰め寄られる、許仙。

こういう場面では、男は誤魔化しきることができない。


白娘子が手の中でヘビに変じた。

それを見て、気絶した。

気が付いたら、まだヘビが居るような気がした。


「それで、すごく怖くなってしまって・・・」


話しながら許仙、だんだん顔が紅くなり、汗をたらたら流し始めた。


その様子が、また、白娘子と小青、本気で大爆笑。


「ひー、・・・アンタ、・・・それで、・・・

 ぷっ・・・苦しいっ・・ゴメンナサイ」


小青が真面目な顔で、


「それで、お姐さんがヘビだと思ったんですか?」


「あ・・いや、・・そんな、・・うん


「ぷー、・・・アタシが・・・なんで、

 へびなのよー・・ぷぷ・・・もうっ」


「お姐さん、私も見ました」、と小青。


「あの時、私が家に戻るとお義兄さんの絶叫がしました

 私は慌てて2階に駆け上がったんです

 そうしたら、床に白くて光る長い物体が

 蛇だか龍だかわかりません

 床から起き上がり、窓から跳んで外に逃げました」


意外なアドリブ、「そうなの?」、と白娘子。


「なら、それはきっと蒼龍ね

 薬店は商売繁盛だし、子供も出来るし

 しまったわね、あの時は私も雄黄なんかで

 香の1つもあげて、拝んでおきたかったわね

 ちょっとアンタッ

 なにが3代続く薬店よ、全部アンタが悪いんじゃないっ


 えっ・・・?


怖ろしい、いつのまにか悪いのは全部、許仙。

そういうことになってしまいました。

女はこういう場面でも、誤魔化し切れるようです。



その夜はもう、それはそれは、・・・HotなHotな夜でした。


明け方、白娘子の髪に触れながら、許仙。


「オレあの時、気絶してたよね

 でも何故だか分かってたんだよ

 ふたりは必死でオレを救おうとしていた

 オレは、それを見ていた」


そうなの、と白娘子。

許仙にぴったり寄り添い、耳元で、


「それで、なんで、ワタシがヘビなのよ」


 ぎゅっ 


ヘビはアンタじゃない


 あっ 


あのー、お腹の子供さんには、くれぐれも気を付けて下さいね。

本当に女房がヘビでもかまわない、そう思う許仙でした。

(注:そして許仙のヘビは再び・・・やめとこ、下ネタ)






南極仙翁がこれまた古い。

どれくらい古いかというと、宇宙の混沌を開闢して天地を造った道教の天地創生神の長男だか末子だかいう設定ですから、

だから、その年齢はビッグバン後の宇宙とほぼ同年齢。


太古の昔の星辰崇拝がその起源ですから、歴史的にもやっぱり古い。

日本の福禄寿の、寿星の正体が実は南極仙翁です。


南極仙翁も、若い時分は『南極大帝』なんて名の凄い神さまでした。

時代とともに道教の神が増えるにつれてどんどん権限委譲、飄々とした独特な味のある神仙となりました。


トレードマークは手にした桃の木の杖、白髪白髭大きな額、いつもニコニコ笑って雲に乗っている平和主義者。

もう自らは動きませんが、的確な助言を与えてくれる神仙どもの優しい長老。

日本の仙人のイメージそのままです。


「南極仙翁てのは、あの白娘子に霊芝仙草を与えた神仙だよ」

現代では逆に、この事例が南極仙翁というキャラクターの説明に挙げられたりします。


白娘子が霊芝仙草を盗っていたのは『瑞草園』という南極仙翁の薬草園でした。

南極仙翁には鶴童子と鹿童子というふたりの内弟子がいて、白娘子を襲った白鶴は南極仙翁の内弟子です。




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