2018-03-19

白娘子フォークロア(1)呂洞賓の湯団子

 ヘビ女房を誤って殺してしまった呂洞賓、白娘子の裏設定  

 白娘子フォークロア(1)呂洞賓の湯団子  

 (湯だんご@白娘子) 


人世に憧れる白ヘビさん

日本には至る所にミニ富士山が有りますが、中華の国の至る所にあるもの。

それは、杭州西湖に模したミニ西湖。

上海にだってちゃんとあるようですね、コンクリート製のモダンなミニ西湖。

日本では上野の不忍池、形状が似ているから「杭州西湖を模して造られた」なんて噂があるようです。


新たに子パンダも産まれたし、中華の人ってなんだかんだで上野が好きだし。

「上野は中華の領土だ」なんて言い出さないことを祈ります。


その昔、杭州西湖が大水害に見舞われた折りのこと。

水の中から全身金色の牛が1頭、姿を現しました。

これは紛れもなく金牛星、東南アジア全域に出没する水の神です。


金牛星が顕(あらわ)れると水が退いていき、金牛は北の山を登って消えていきました。

当時の人々も、これは何かの権化であろうと金牛を祀り、金牛寺が建立されました。

その後も何度か金牛は、旱魃に見舞われた折りなどに出現しては清水を吐いて、西湖の湖水を庇護してきた伝説が残っています。

春ともなると人が集まるそんな西湖、こういう場所には、神仙や霊物だって集って来るのです。


俗に謂う『八仙』は信仰の対象というよりも、ゴレンジャー系の戦隊ものと考えてください。

上八洞に8人の神仙がいて、それぞれに得意技を持っていて、騒ぎを起こしたり怪物を退治したりいたします。

荷仙姑(かせんこ)という紅一点が混ざっているのも、戦隊ものと同じです。

ただこの荷仙姑は、ほんとに女性なのか男の娘なのか分からない、という萌えポイントを持っています。

八仙の中で一番人気は呂洞賓(りょどうひん)、ピンで活躍するお話しもいろいろあります。


この呂洞賓がヒトだった頃の名は呂岩(りょがん)といいました。

呂岩の女房が、実はヘビだったのでした。

それを変な道士に教えられた呂岩は、ついつい女房の正体を暴いてしまいます。

ヘビに戻り死に行く女房、そこで呂岩は初めて自分のしたことに気が付いた。

たいへんな悔恨の呂岩に、ヘビ女房は死に際に言いました。


「わたしを大木の下に埋めて、49日目に掘り出してください」


そうすれば、再び会えますよ。

ところが悲嘆に暮れる呂岩は間違えた、48日目に掘り出してしまった。

そこに在ったのはヘビでも女房でもなく、2振りの剣でした。

これを、雌雄の剣といいます。

その後の呂岩は、何を悟ったのでしょうか。

雌雄の剣を携えて、悪ふざけをしながらもヒトを助ける。

そんな種類の仙人、呂洞賓になりました。


 山外青山楼外楼

 西湖歌舞幾時休

 暖風薫得游人酔

 直把杭州作



新緑の芽を吹き薫風に揺れる蘇堤の柳。

咲き始めた桃の花に誘われて、あちこちから人々が集う陽春3月。

白髪白ヒゲのオヤジに変じた呂洞賓も、断橋のたもとの大柳の下で荷物を降ろして店を広げます。

ナベの中では湯だんごが浮き沈み。


湯だんご は白玉(しらたま)のような点心です。

小さな甘いダンゴをお湯を張った椀に入れて、温かいまま食べます。

まだちょっと肌寒い春に、温かくて滑らかな喉ごしがとっても格別。


 童謡「売湯圓(マイタンユェン) 王雪晶 Crystal」(Youtube)



店を広げた呂洞賓は、さっそく商売を始めます。


「あったか湯ダンゴだよー

 大きいのが3個で10円、小さいのが1個30円

 安くて、旨くて、あったかいぞー」


道行く人々がみんな笑います。


「よお、オヤジ、なんか間違ってねえかー

 逆だろーぜよー、値段がよー」


そう教えてくれる親切者もいるのですが、呂洞賓はやっぱりそのまま、


「大きいのが3個で10円だー

 小さいのが1個で30円だー、安いぞーー」


そう声を張り上げる。

そういうことなら遠慮は無用、みんな群がって大きい湯ダンゴを買い求めます。

たちまち売り切れ、そこを通りかかったオヤジがゴネ始めたガキんちょを抱っこして困ってしまいました。

みんな嬉しそうに湯ダンゴを食べてるのを見たら、それは子供だって食べたい。

泣く子と地蔵にはなかなか勝てません。

オヤジはあきらめて、30円だして小さい湯ダンゴを買いました。


お湯を張った椀に、小さな湯ダンゴをひとつ。

子供目線で呂洞賓、椀に「ふっ」っと息をひと吹き。

すると小さな湯ダンゴが、椀の縁に沿ってコロコロ転がって回り始めた。

ガキんちょは大喜び、たちまちツルッと食べてしまいました。


それ以来そのガキんちょは、ものを食べなくなってしまいました。

なのに全然平気なんですから、これは変です。

食べないから衰弱する、だったら分かるのですが、食べないのに元気なのは変すぎです。

しかし食べないから、体重がどんどん軽くなっていきました。

これはヤバイ感じです。


ガキんちょを小脇に抱えてオヤジは断橋まで走ります。

そこにはいました、湯ダンゴ売り。


話を聞いた呂洞賓は、「あはは、そーか」とひと笑い。

ガキんちょを抱えて、断橋の上で、足を引っ掴んで逆さにぶら下げ、

猛然と揺すりながら、


出て来い!


すると3日前に食べたはずの湯ダンゴがそのまま、口から出て来てコロコロ転がり、

断橋から西湖の中に落っこちていきました。



西湖の湖畔を行き交う人々。

男もいれば、女も老人も子供もいます。

3人組の親子が西湖を眺めながら談笑し、若者5人が舟遊びをしながら、なんか戯れています。


 ぼっちゃんっ


おっと、ひとり舟から落ちました。

植樹をする者、花の手入れをする者、店先で立働く者。


かれこれ500年白ヘビはそんな人間たちの様子を見てきました。

その間には、西湖が荒れ果てて水が涸れそうになった事もあります。

その度に、人物が現れて修繕整備を繰り返し、この風光を保ってきました。

断橋の下で修練を積むこと、500年。

霊性を帯びてきた近頃は、ことに人間たちが羨ましくてしようがない。


白ヘビは今日も、かま首もたげて断橋の下で、人間たちの様子を眺めるのでした。

橋の上では仙人が笑いながら、人間の子供を振り回していました。

仙人のダンゴをパクッ

時には、ケンカを始める者だっています。

そんなもの全てが羨ましい。

あと何年修練を積んだら、あの人間たちと一緒に・・・


上を向いて、溜息ついたその時、

湯ダンゴが落ちてきて、白ヘビは思わずパクリと食べてしまいました。





 このくだりは、日本版の白蛇伝説では見かけないお話しです。


 白ヘビが呂洞賓(りょどうひん)の湯だんごを食べて成仙する。


 中華版でも普通は入らない、杭州の民話だということでしたが、

 その民話には、呂洞賓の女房がヘビであった、という話しまでは入ってなかったので足しておきました。

 中華の昔話好きには、当たり前の話しのようです。






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