お肉屋なのに肉がない「肉がないなら骨を売れ」瘋癲の不良和尚
骨を売る肉屋
(排骨酢豚@済公さん)
前のお話し:【盗仙桃(2)仙桃を盗み食い】
[関連・参考]【メモ】排骨酢豚
無錫を太湖から |
酢豚といえば広東料理、野菜が入ってパイナップルが絶妙です。
パイナップルに賛否両論はあるものの、本来は野菜もパイナップルも入りません。
骨付きの豚肉、つまりスペアリブだけで、お酢は黒酢を使います。
この酢豚の起源は、広東ではなく江南地方の無錫(ウーシー)の、無錫排骨(ウーシーパイクー)でした。
上海のちょっと上に大き目の湖がありますが、この太湖(タイフー)のほとりに蘇州があります。
蘇州のすぐうえが無錫(ウーシー)で、同じく太湖(タイーフー)のほとりの水郷です。
さらに遡って長江沿いまでいったら、鎮江(ツェンチャン)があり、鎮江では黒酢が特産品です。
その間には常州や揚州もありますが、杭州、上海、蘇州、無錫、鎮江は、大運河で長江まで繋がっています。
現代でも船便があるそうなので、一度、このあたりを船旅してみたいものです。
無錫排骨(ウーシーパイクー)は、醤油と砂糖と香料でスペアリブを煮込んだものです。
これに、鎮江の黒酢を使った酢豚が、江南料理の糖醋排骨(タンツーパイクー)です。
糖醋排骨 |
“排骨(パイクー)”はスペアリブのことで、ラーメンの上に揚げた肉の乗った「パーコー麺」ってありますよね。
“パーコー”=“排骨”で、日本ではたいてい骨は取ってありますが、パーコー麺も本来は骨付き肉を使います。
以前は、第二神明(注:地元の自動車専用道路)の明石(あかし)サービスエリアに、パーコー麺があったのですよ。
今は、丸亀製麺になっちゃって、無くなっちゃいました。
美味しかったのに、残念です。
今日はツイてない、そんな日があるものです。
済公さん@テレビドラマ |
肉屋のオヤジさんも、朝からそう思っていました。
売り物の羊肉を、野良犬に泥棒されて食べられてしまったのです。
「あの犬、今度見つけたら喰ってやる
鴨肉はカアちゃんが、自分で食べちゃうし、
もう豚肉しか残ってないよー、あーどうしようー」
そんな事をぼやきながらオヤジさんが外を見ていると、ホームレスがふらふらとこちらにやってきました。
「やだなー、こっちにくるよ
来るんじゃないぞ、ほらあっち行けよ」
肉屋のオヤジさんが見ていると、そのままふらふらと、どんどんこっちにやって来ます。
オヤジさんが見ているからこっちの来るんですが、ツイてない時はそんなものでしょう。
見てるからこっちに来るのに、それに気付かない。
あーあ、とうとう来っちゃった。
ホームレスさんは店の中にまで入ってきてしまいました。
ボロけた僧衣に破れた扇子と手にした瓢箪、瘋癲(ふうてん)和尚の済公さんです。
済公さんはただ、ニコニコ笑いながら手を差し出してきました。
お布施を寄越せということですが、お経のひとつもあげないんですから性質(たち)が悪い。
肉屋のオヤジさんは、ガックリきてしまいました。
と、肉を一塊、済公さんに差し出しました。
済公さんは、肉をたいらげると、またくれといって手を出してくる。
気の抜けたオヤジさん、また肉を一塊。
そうくりかえすうちに、オヤジさんがハッと気付くと、もう肉がなくなってきています。
「あーもう、肉みんな食べちゃってー
あしたから、何を売ったら、いいんだよぉ~」
済公さんはニコニコしながら、さわやかに、
と言うや、破れ扇からホネを数本抜き出して、食べ残した骨を器用に結んで手渡した。
「これを、スペアリブと一緒に煮込んでみろ
今日、ワシが食った肉は、倍にして返してやる」
何を言ってるんだか、冗談な風でもなさそうですが、だから却って性質が悪い。
オヤジさんにしたら、冗談じゃありません。
さんざん肉を食われて、その返礼が、破れ扇のホネが数本とは。
オヤジさんは疲れきった顔で、店じまいをいたしました。
翌朝、肉屋のオヤジさんがテーブルを見ると、昨日の不良坊主が置いていった破れ扇のホネがある。
オヤジさん、変な気を起こします。
破れ扇のホネと、あまった豚骨と、僅かに残った骨付きの肉を一緒に鍋に放りこみました。
するとたちまち鍋から、いかにも旨そうな匂いが吹き出してきます。
フタをあけて中をみると、鍋いっぱいにスペアリブが美味しそうに煮えていました。
口当りがやわらかく、味が濃厚で、馥郁とした香り。
実は肉は、骨付きのまま料理した方が、柔らかくって美味しかったのです。
その後、オヤジさんはスペアリブ料理の研究を重ね、この料理は無錫(ウーシー)の郷土料理となっていきました。
清朝末期になり商工業が発達して、他郷の人々の出入りが多くなってくると、無錫の名物料理として名を馳せることになります。
次のお話し:【饅頭山攻防戦】(饅頭@杭州)
[関連・参考]【メモ】排骨酢豚
0 件のコメント:
コメントを投稿