2017-06-11

西大后・夏の氷(酸梅湯@点心大后)

 ある西安の職員さんの尊い犠牲  

 西大后・夏の氷  

 (酸梅湯@点心大后)  



太白山の山頂、今はちゃんと気象観測書があります

西大后が来る!


西安の街に、激震が走った。


何しに来るんだよー、なんて思ってはいけません。


彼女は清国の国益を憂えればこそ、義和団の外国人排斥運動に乗っかっただけです。

図に乗って外国人排斥運動をやったら、諸外国が怒って北京に攻めてきただけです。

しかも八国連合だなんて、卑怯極まりない。


何だか世界中を敵に回してしまいましたが、全然彼女のせいじゃありません。

西大后は仕方無く、西安へ一時退避することになりました。

もう既に太監の李蓮英が先に西安に入って、西大后の受け入れ準備を始めているのでした。

ちなみにその間に、紫禁城は占拠されちゃいました。



西大后は美容のために、毎日、酸梅湯をお召し上がりになります。

西安の職員さんも、西大后に酸梅湯をお出しいたしました。


烏梅のジュース-氷鎮酸梅湯

「熱いですね」


「ははっ、暑うございます

 西安は、今ちょうど、夏でございます」


「何を言っているのですか!

 北京だって、今は夏ですよ

 私は、熱いと言ったのです


「ははっ、暑うございます

 北半球は、今ちょうど、夏でございます」


ぴきっ、西大后の怒り。


いけない。

このおばはんは、いったい何を怒っているんだ。

それが分からなければ、もし分からなければ、

その時は、



 ─ 処 刑 ─  



顔面蒼白になって、だらだら脂汗を垂れ流す職員さん。

その時、西大后の後ろに控えている太監の李蓮英が、職員さんに微かに目配せをしました。


(わたしに任せなさい)


ほっとする職員さん。


「老佛爺(ラオフォイエ)、わたくしが行って

 すぐに新しく、お出しいたします」



そう言って、李蓮英は職員さんを部屋の外に連れ出し、厨房に向かいました。


西太后さんが来ました

「西大后は大変に厳しいお方です

 しかし厳しい外面とは裏腹に、

 ほっこりとした栗のような内面をお持ちです

 なればこそ私達や北京の者たちは、

 老佛爺(ラオフォイエ)とお呼びするのです」


「老佛爺は、何を怒っておられるのでしょうか?」


「それは簡単、酸梅湯が熱いのです」


「熱いって、酸梅湯(サンメイタン)は、湯(タン)です

 スープなんですから、熱いのがよろしいのでは?」


そう本来は、酸梅湯は具材がちょっと入ったスープを指します。

ジュースタイプは酸梅汁(サンメイチー)ですが、たいていひっくるめて酸梅湯(サンメイタン)と呼んでしまいます。


「いえ、老佛爺がお飲みになるのは、

 氷鎮酸梅湯(ピンツェンサンメイタン)です」


「なんだ、冷たいのがよろしかったのですね」


氷で冷たく冷やした酸梅湯、西大后はこれが飲みたかったのでした。


「氷は、どこですか?」


「・・・・え・・・」


「・・・・え・・・

 まさか・・・無いの?


「有るわけないでしょ」


さささーーーーーー


李蓮英の血の気が、いっせいに引いていく音が聞こえました。

これは、やばい。

もう、「すぐお出しします」なんて、言っちゃったのに。

もしも、氷鎮酸梅湯を出す事が出来なければ、

その時は、

その時は、



─ 処 刑 ─  



「いけません、すぐに氷を探すのです」


「何処をどうやって、この夏の最中に!」


あのー、氷だったら、有ると思いますよ。

その時、ひとりの若い厨師がそう言い出しました。


「有るのですか、何処にですか」


そりゃー、崑崙山(こんろんさん)です。


「アホですか、崑崙山なんて

 仙人にお願いして雲に乗って取ってきて貰うんですか

 永鎮雷峰塔の白娘子(はくじょうし)じゃあるまいし」


ん、まてよ、山?

西安の近くには、太白山(たいはくさん)があったはず。

その頂上には氷河でできた湖があったはず。

確か、唐代の皇帝が使っていた、氷室(ひむろ)が有ったはずだ。


太白山

「そうです、太白山です

 すぐに行って、

 氷を取って来てください」


ひえ、職員さんの悲痛な悲鳴。


「その間、私が、老佛爺の、

 御髪(おぐし)を整えて、時間稼ぎをします」



太白山、標高3767m、黄河と長江の分水嶺。

(注:無駄に長い川なので、分水嶺は幾つも有り、そのひとつ)

山脚盛夏山嶺春,山麓艶秋山頂寒、とまで詠まれた永久凍土層の山。


西安の職員さんは、見事に氷を探し出して持ち帰って来た。


ギリギリ、セーフ


職員さんは、それ以来、毎日のように太白山に登って氷をとってきました。

日を追うに連れ職員さんは、ヒゲぼうぼうの山男の風貌になっていったといいます。

そしてある日、山に登ったきり、遂に戻ることは無かったそうです。


その数年後から、チベットのチョモランマでは、ビッグフットが目撃されるようになりました。


そのような西安の職員さんの尊い犠牲のおかげで、西大后は美貌を保つことができました。

大変に見習いたくないものです。

残念なことに、その8年後に清朝は滅びてしまいます。




【前のお話し】烏梅皇帝(龍井茶@点心皇帝) 

【次のお話し】骨を売る肉屋(排骨酢豚@済公さん)の予定です 

【メモ】酸梅湯@点心皇帝 


【お話し一覧】点心のひみつインデックス 





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