延齢草・茶・猴姜・生姜、神農嘗百草の神農伝説
神農記(1)神農嘗百草
(お茶@神農伝説)
【前のお話し】3食点心付き(上海)
【次のお話し】神農記(2)降生
延齢草 |
毒ヘビに囲まれた。
山で薬草を探していて、見つけたらいつも鞭で打ってやる。
だから、毒ヘビたちも怒っている。
逃げよう、と思ったが跳びつかれてしまった。
毒ヘビってやつは、跳ぶから始末がわるい。
咬まれた、腰、太もも、お腹、ヘビをぶら下げたまま倒れてしまった。
毒が回り血がとまらない、痛みを堪えて助けをよんだ。
「おーい、西王母~ぉ、早くたすけてくれー」
ヘビたちが逃げ出していく、空を見ると青鳥が飛んで来ている。
助かった、青鳥はクチバシに救命仙丹をくわえている。
呼び声を聞いた西王母が寄越してくれた青鳥を見て、毒ヘビたちは逃げたのだ。
「ありがとうよー、西王母によろしくなー」
大声で青鳥を見送ったら、ポロリ、
大口を開けた拍子に、さっき呑んだ仙丹が転がり出てしまった。
山の地面に転がった、救命仙丹。
観察する。
仙丹から芽が出て、するする伸び始め、花が咲き実がなった。
救命仙丹の実を1つとり、口に含んでみる。
さっきの仙丹とおんなじだ。
毒ヘビの特効薬を見つけてしまった。
それにしてもあのヘビたちめ、今度遇ったら潰して薬にしてやる。
『頭頂一顆珠』、というお話しです。
これは延齢草という薬草のお話しですが、熟した実や根っこが薬になります。
毒草ですからうかつに食べてはいけません。
野生の草木の葉っぱや根っこを咬んで、薬草を探し出した神さまの神農氏。
オヤジ、オバハン世代は親から聞かされたものですが、今の世代はどうでしょう?
え、ゲームだかラノベだかに登場するから知ってる方はよく知ってる?
これは失礼しました。
この神農氏は薬草を探す過程で、お茶もついでに発見したことになっています。
神農が手にする武器は神鞭、ハマグリの精髄で出来ていて猛獣や妖魔を打ち据え、薬草採取の際には毒物判別器にもなります。
これは天帝から授けられました。
巴豆(はず) |
ショウちゃんが毒にあたってしまった。
ショウちゃんは変なイヌだ。
お腹が透明で、五臓六腑と十二経絡が透けてみえる。
だから薬草の効用を調べるのに、すごく便利だ。
今日も薬になるかなと思って、変な豆を食べさせてみた。
そうしたら、物凄いゲリピーになっちゃったよ、こんな山の中でどうしよう?
朝露が頭に落ちて、目が覚めた。
野宿しながら看病していたのだが、眠っちゃったらしい。
ショウちゃんが元気になっていた。
どうも朝露で快復したらしいのだが、朝露で快復って、コイツは妖精だったのか?
頭上の樹上の青葉を一枚とって、咬んでみた。
これは爽やかだ、甘みもあって、渇きが止まる。
どうやら、これが効いたらしい。
好いものをみつけた。
薬草を探していて、─ 査(チャ)─見つけたのだ。
コレは茶(チャ)と名づけよう。
お茶発見のお話しもいろいろあって、一休みして湯を沸かしていたら葉っぱが落ちてきて茶になった。
なんてのも、ばかばかしくて秀逸だと思います。
唐代ぐらいまでは茶は、インディオがコカの葉を噛むように、茶葉を噛んで薬にしていたはずです。
最澄が初めて日本に茶を持ち帰った時代もまだ薬で、中華で喫茶法を確立したのは茶仙の陸羽。
日本で茶の湯を広めたのは、栄西禅師(ようざいぜんし)です。
このお話しは、『不経獐狮薬不霊』というお話しの一部です。
意味は、「獐狮が治験しない薬なんて効かない」です。
薬草採取のお供は神犬ですが、猿とするお話しもあります。
『獐狮(ツァンシー)狗(コウ)』だったら犬ですが、
『獐狮(ツァンシー)猴(ホウ)』だったら猿になります。
ここではイヌにしておきました。
お腹が透けて見える獐狮狗は、神農を慕って自らやって来ました。
このイヌは神農が野草を口にしようとすると横取りして自分で食べ、お腹を見せて薬効の確認をさせてくれます。
変な薬草で中毒を起こすリスクを、こうして分担してくれています。
この時、獐狮狗が食べた変なマメは『巴豆(はず)』という毒豆で、漢方薬にもなります。
獐狮狗の最期は、神農に猛毒の丸虫を無理に食べさせられて死んでしまいます。
それを悔いた神農は、自戒のため獐狮狗の像を作り、いつも傍に置いておきました。
これに倣(なら)い漢方薬のお店では、獐狮狗の像を店先やカウンターに置いていたといいます。
残念ながらどんな像なのかは、ちょっと分かりませんでした。
骨砕補 |
崖から落ちた。
あの野草、手を伸ばせば届くと思ったんだが甘かった。
すごく痛い、足のホネが粉砕骨折、薬草もだいぶたまって病気も治せるようになってきたというのに。
これじゃ医者の不養生ならぬ、医者の不用心だ。
静かだな、このまま死んじゃうのかな?
うわ、なにか来る、サルか?
うゎああ、いっぱい来た、手に手に毛の生えた変なものを持っている。
サルが変なものを差し出してきたので、もらって食べてみた。
辛い、ガマンして汁を飲んだ。
鎮痛作用はあるみたい。
残りは噛み砕いて、足の折れたトコに湿布した。
すると治った。
早速、サルの後を追ってみる。
やっぱりあった、さっきもらった薬草だ。
骨折が治るクスリがあるなんて、猴(さる)が姜(きょう)烈山を助けた。
これは、猴姜(ほうきょう)と名づけよう。
『骨砕補』というお話しです。
骨砕補は猴姜の漢方薬名で、骨砕補を使った骨折薬が実際に販売されています。
でも、骨折をどうやって薬で治すんでしょう?
こんど骨折したら使ってみようと思うのですが、まさか薬事法違反じゃあるまいな。
『神農』と書いて「テキヤ」と読んだりしますが、縁日の屋台の的屋さん。
この方々は行商の薬売りの末裔で、だから神農を祀っているのだそうです。
地方自治体単位で『○○神農組合』等といった団体名となって神農の名は残っていたのですが、
現代はどうなんでしょう?
あの方々も警察庁が頑張ったおかげで、ずいぶんとニワバから締め出されているようですし。
日本ではもっぱら薬の神さまですが、実は農業の神さまと見るべきです。
人間が狩猟生活をしていた頃に五穀と薬草を発見し、鋤鍬(すきくわ)を作り、栽培すること即ち農業を発明しました。
収穫物が余ったら交易を発明し、松明(たいまつ)を発明し、食料保管用に陶器を作り、穀物の余った茎で機(はた)を織りました。
農業神というより、文明の神さまって感じでしょうか。
中華の人々は黄帝の子孫だそうですが、神農氏はさらに古く、炎帝神農が滅んで黄帝がとって代わったという位置づけになります。
姜烈山(きょうれつざん)、これが神農氏の名とされていますが、湖北地方の姜(きょう)という部族の首領であったようです。
また、烈山の方も、どうももとは地名のようです。
今回は最後に生姜のお話しです。
伝説に拠ると、お薬の第1号は、生姜ということになります。
生姜 |
立ち眩みがする。
何でもいいから食べておかねば。
野原で食い物をあさっていたら、いきなりぶっ倒れた。
体が動かない。
気絶していたらしい、雨が降っている。
しかも土砂降りで、背中の下を泥水が流れていた。
寒い、発熱したか、無意識に手にしたものを口に入れた。
辛い、だがよく咬むと爽やかな風味がある。
食べてから気付いたのだが、いつのまにか、草の根らしいモノを手に握っていた。
どうやら泥水で流れてきたらしい。
体が暖まってきて、熱が退いていった。
しばらくすると、体が動くようになった。
まさか、こんな草の根で、病気が治ったのだろうか?
あるいは山野には、こんな病気を治しうるものがまだまだ在るのかもしれない。
いつか山に入って探してみよう。
その第一号のこいつは、わが一族の名から『姜』と名づけた。
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