碧の箭竹、天にのびる冷杉、高山杜鵑、三層に色づく神農架
神農記(5)神農架・冷杉と杜鵑
(神農伝説)
【前のお話し】神農記(4)老君煉鉄
神農架の原生林 |
神農架の麓にある山郷、碧の箭竹、天にのびる冷杉、高山杜鵑。
鮮やかに色づく山裾、薬草採取の手を止め見あげる神農。
思い出すのは、娘と若者、あのふたりのことでした。
(杜鵑花:読みは「トゥーチュエンフア」、「とけんか」、ここでは山ツツジの意)
娘は聡明で可愛いタイプ、猟師の若者が恋をして、娘もまた。
なんだかそこらの気温が3℃ほども上昇しそうな話しですが、そういうウワサは今も昔もすぐに広まるものです。
山賊の馬皇(ばおう)にうわさが届いてしまいました。
若者の猟の腕もなかなかに好いらしい。
馬皇は娘をものにして若者は配下にしようなどと、ろくでもないことを考えます。
そういう悪だくみもまた、すぐに広まるものです。
娘と若者は逃亡、馬皇の追っ手がかかります。
神農架に逃げ込むふたり、たまたま山を下りていた神農がそれを見ていました。
神農もまた、娘と若者の事情は知っています。
駆け出す神農、追っ手が矢を放つ、倒れるふたり。
神農が手にした種子を撒き散らすと、箭竹が生え繁り波濤のように広がりながら追っ手を襲いました。
追っ手たちは竹に絡め獲られ、ふたりは、
手を取り合ったまま、すでに死んでいました。
毒矢、人に向かって射たのか!
どんなミスを犯したというのか。
農業を興し、医薬を作り、鉄器を作る手助けもした。
人は強くなったはずだ、なのに、このふたりは死んでいる。
何か変だ、神仙になってからというもの、神農にはそんな疑問がいつもありました。
神農の仙気、若者は冷杉になって高く伸びていきました。
娘は杜鵑となって花を開き、ふたりは永遠の伴侶となりました。
箭竹、冷杉、高山杜鵑、三層に彩られた神農架の山裾、それは神農が何か問いかけているのかもしれません。
馬皇はその後、人畜の血を吸う種類の害虫、
山ヒルとなって竹林に住むようになったということです。
【次のお話し】神農記(6)木の魚
杜鵑の読みはふつうは「ホトトギス」ですが、このお話しでは「トゥーチェン,とけん」で、ここでの杜鵑は、山ツツジを意味します。
原話では、少女の名が杜鵑で、若者の名が冷杉でした。
別の伝説で、炎帝の娘が海で大波に呑まれて、死後に鳥となるお話しがあります。
その鳥を“精衛(チンウェイ)”といいますが、小枝を咥えて来ては海に捨て海を埋め尽くそうとします。
これは、精衛填海(チンウェイティエンハイ)という、「無駄と知りつつ諦めない」を意味する成語の故事です。
他にも岩燕を始めとして神農が鳥に助けられる話しは多く、神農と鳥の関りは深いようです。
このお話しも元々は、「少女は神農の娘だったんじゃなかろうか?」などと妄想します。
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