2014-10-12
蒸功夫-プロの蒸し技
野菜まんは小さいので、 2個からの注文でお願いします。
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正直、肉まん1個だけの注文が入った時には、「レンジで簡単に蒸すこと考えてよ」と言うのですが、店長は譲らない。
「だめよー、蒸篭じゃなきゃ」
と、言いながら大鍋を火にかける。
こないだなんか、
「日本の蒸篭ダメよー。高いばっかりで」
とか言って、上海の家族に蒸篭(せいろ)を送れと注文してました。
日本の蒸篭も大半は中国製だろうから、なんか納得できないのですが。
でも、確かにそうなのです。
的確に蒸すためには、蒸篭じゃなきゃできない。
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「蒸すの時間と火加減が、凄く難しい」
流石の店長も、そうこぼす。
特に、小龍包はそうなのだと言います。
一壽の肉まんと小龍包は、冷凍です。
以前のブログでも、それは宣言していました。
なのに、
「肉まんがスゴク美味しかった。初めて」、そんな声は何度も頂きました。
なんだか大袈裟なことに、「小龍包が姫路で一番美味しい店」、そう伝え聞いて来られたお客様も何人となくある。
そんなことになる、店長のこだわり。
それは、蒸功夫と言ってもよいのでしょう。
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コンビニあたりの少しベトついた、肉まん。
実は大好きで、出先で買い食いしては、いつも店長に睨まれてます。
アレは、蒸気を通してないから当然です。殆ど水の蒸発潜熱で蒸しあげているんじゃないでしょうか。水の蒸発潜熱は確かに他の物質より大きいのですが、蒸しあがるのに1時間以上かかります。
一壽にも、電気蒸し器が1個ありますが、結局使っていません。
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蒸し料理は何でもそうであるはずですが、肉まんを蒸すのもまた、ただ密閉容器にスチームを満たせばOK、という訳にはいきません。
的確に蒸す事の出来る究極の器材は、やはり蒸篭となります。
食材に適切に熱を伝えるためには、蒸気を滞留させた状態ではなく、通気させる必要があるのです。
流体中の固体表面には温度境界層 - 境膜という流体(ここでは水蒸気)の薄層が生成して、熱伝導を妨げます。
この境膜は、流体速度の平方根に反比例して薄くなる。熱伝導率は、境膜厚みに反比例して高くなる。
つまり、食材表面に蒸気を流すことにより、熱伝導効率を何倍も高めて、食材を的確に加熱することが出来るわけです。
それを実現する器材が、蒸篭というわけです。
経験値では、蒸篭は電気蒸し器の 4~5倍 伝熱効率が大きいようです。
但し、蒸篭は下から蒸気をただ吹き上げているわけではない。
蒸篭内部は、水の沸点の100℃に近く、蒸篭外部は常温です。
温かい空気は軽いから上昇する - 煙突効果。
実際の工場煙突にも点検口が設けられていますが、煙突内部を通るガスの条件によっては、点検口から相当な吸引力で外気を吸い込みます。
積み上げた蒸篭は煙突効果により、蒸気を吸い上げるのです。
空気の平均分子量は約29。水の分子量は18と空気の約2/3の軽さ。
蒸篭の煙突効果は、目算以上に効きそうです。
蒸篭が煙突効果により吸い上げる頭(とう.圧力のこと)は、開放大気圧の条件下で湯を沸かすのですから、概ね一定ですが、その煙突効果による吸い上げ量よりも蒸気供給量が下回ると、外部空気が入り込み、蒸気が冷やされ水滴になり、肉まんは湿ってしまいます。
ガス代節約のために、蒸気供給量をケチってはいけないのです。
蒸篭を的確に使えば、中の食材は濡れない。そして乾燥もしない。
肉まんを的確に蒸すための、最適な鍋の加熱強度。 火加減というものは決して概念的なものではなく、物理的に存在するのです。
ここまでは、伝熱工学の計算式で有る程度計算もできそうです。
解は例えば、「何cm径の蒸篭の何段積みなら、最適解は何ml/分で鍋の水が減っていく火加減」という形になるはずです。
書きながら興味を引かれたので、気が向いたらやってみようとおもいますが、ここからはそうはいかない。
むやみに熱量を伝えて、食材を調理すればいいというものじゃない。
時間的な因子、やはり最適な加熱速度というものが存在するでしょう。
一気に加熱していいのなら、圧力鍋でOKなのです。
それを算出する物理方程式というものは、有るのでしょうか?
蒸される側の条件も組みこみモデル化して、出来ぬではないでしょう。
大手の食品加工会社なら、或いは経験式にせよ、持ってそうな気もします。
すみません。
色々理屈を捏ねたところで結局は店長の長年の経験、それには敵いません。
蒸功夫 - プロの蒸し技。
それはこういった全ての条件と制約を、経験を積んだ脳が瞬時に解決して実現する、一種特殊技能なのです。