2017-09-25

貴妃の舞(餃子@楊貴妃)

 凄艶な楊貴妃の怒り、命懸けで餃子を作る点心師 

 貴妃の舞 

 (餃子@楊貴妃) 




餃子宴の舞台

わたし、ライチが好き


その女性はきっと、しっとりとした素敵なお姉さん。

そんな印象があります。

だ~いじょ~ぅぶ~、全然まちがってません。

ライチ、春瓜、それは楊貴妃の好きなモノだから。


そして楊貴妃に欠かせないモノ、それは餃子。

あのプリプリした食感、思い出したらガマンできない。

楊貴妃は餃子中毒なのでした。


中華での楊貴妃の扱いってば・・

そんな時には玄宗皇帝、大慌てで厨房に走ります。

餃子を注文すると、また大急ぎで戻る。

ヒステリーを起こした楊貴妃、美しいのです。


 楊貴妃は宮廷音楽家

 芸術家とは、感情の起伏が激しいもの

 創造の苦しみ故に、感情の爆発を許されしアーティスト

 喜怒哀楽脾苦、楊貴妃はその全てが美しい

 色と姿がくるくる変わる、舞い踊るアクティブな花


楊貴妃を見ていると、玄宗皇帝の中の芸術魂が触発されるのです。


「おーい、餃子ぁー、大至急~」


「へーい、餃子1丁、よろこんでぇー」


すぐに手が動いて、餃子を作り始めます。

その日の点心師は、命懸けで点心を作ると評判の職人、その名もヒト呼んで『点心鬼』。


注文を受けてから手が動きだすまでに、わずか2秒。

その間に、


 貴妃が食される餃子だな

 帝とは、豊満な女性がお好きなものだ

 楊貴妃も『肥婢』と称されるお方

 だからこそ、貴妃になられた

 うんよし、もっとお肥り頂こう

 きっとご満足頂けるぞ


これだけの思考が働いている。

心構えがちがいます。


楊貴妃だから、焼きギョーザを齧りながらビールをグイッなんてやりません。

ギョーザのくせに上品な、蒸し餃子。

ブタの脂身を効かせて、ニラたっぷりの餃子を包み、蒸しあげます。

形状はカエル型にしてみました。

自信たっぷり、楊貴妃にお出しします。


顧客の満足がなにより大事な点心鬼さん、


(お褒め頂けるかも、うふっ)


ドアの外でこっそり、楊貴妃の様子を覗います。


 うにゃ? 

 ふぎゃーーーー 

 どど 

 バンっ 

 ガシャーーーン 


 ふおぉぉ 


様子がヘンです。

こっそり点心鬼さんが逃げようとした、その時。


 ぼこっ 


カベをぶち破って、ターミネーター T-800型

じゃなくって、最終兵器のような厳つい衛士が飛び出てきました。

なんかチビっちゃいそうです。


衛士は点心鬼さんを見留めると、グルグル巻きのチマキにして柱に縛りつけます。


チマキとは、端午の節句なんかに食べるモノです。

ゴハンやモチを、竹皮で包んで作ります。

中華では「簀巻きにする」を、「チマキにする」と表現します。

点心鬼さん、チビっちゃいました。



楊貴妃は、例の蒸し餃子をひとくち召し上がり、

ぴゅっ、と吐き出し、仰ったのです。


「やだっ・・・・

 ・・・肥り死に・・・

 ・・・させる気かしら」


華清池の楊貴妃のお風呂

そうはー 

イカのキン○マー 

タコがひっぱるー 


コレをーー 

 作ったのはーーー 

 あの、点心犬だなぁーーーー


楊貴妃の怒り、凄絶な美しさ、ちゃぶ台をひっくり返しざま、


あの点心犬をひっつかまえて 

 ふん縛れーーーーーーーーーー」


最終兵器が吼えながら飛び出してきた、というワケでした。

協議の結果、お昼ゴハンが終わってからオヤツの前に処刑。

そう決まりました。

さすがは、命を懸けた点心鬼さんです。


そこへやって来たのが、玄宗皇帝。

なにやら楽譜を手にして、振り回しています。

スキップをしてます。

これは、ハイテンションの芸術家モード。

絶望的です。


「おお、これはチマキだ、チマキがあるぞ」


「これは皇帝陛下、万歳(ワンツイ)、万歳(ワンツイ)、万万歳(ワンワンツイ)


「さすが命懸けで点心を作ると評判の点心鬼

 これは、チマキの気持ちを知るためだな」


「いえ違います、すぐに頸(くび)を斬られてしまうのです」


「なんだ、荒巻ジャケの練習か、じゃっ」


「ああー、まって、まって、まってー」


「 なに? 」


「 その楽譜は何ですか? 」


うまいとこをつきました。

玄宗皇帝は中秋節の夜、道士に連れられて月へ行き、嫦娥仙子の歌を聴いたのでした。

月宮で聞き覚えてきたその曲を、やっと譜面に落としたのだといいます。


「いまからね、うふっ

 自分で演奏してね、ちゃはっ

 楊貴妃ちゃんにね、舞ってもらうの」


「いいなー、私も観たいなー」


「だめっ、どうせ変な餃子作って

 お仕置きされてんだろ」


「なんで分かるんですか?」


「楊貴妃ちゃんのコトはね、なんでもわかるの」


下僕の匂い。

周囲には窺い知れない、玄宗皇帝と楊貴妃の不思議な関係。

思うに、玄宗皇帝も楊貴妃に、チマキにされたことがあるのかもしれません。


「そんなぁー」


「・・・、キミは丸い月は?」


「 えっ? 」


「丸い月は嫌いか?」


「・・・大嫌いです・・・

 月は十六夜に限ります」


「OK、許してやろう

 もう1回、餃子を作ってみなさい」


さすがは点心鬼、皇帝の変なクセを知っていました。

厨房に走りかえって、今度は熟考します。



玄宗皇帝は楊貴妃のもとを訪れて、

玉笛をおもむろに取り出して、

さあ舞っておくれと、『霓裳羽衣(げいしょううい)の曲』を吹き始めます。

ところが楊貴妃、微動だにしない。

これはレッドアラート、『警戒警報発令』、玄宗皇帝は顔を蒼ざめながら慎重に、


「楊貴妃ちゃん、なんでも言ってごらん

 どうしたのかな?」


「アンタの点心鬼さんたら・・・

 ・・・あんな油まみれの餃子・・

 ワタシ肥ってしまって、舞えません」


それなら、だいじょうぶ。


「もう新鮮な餃子を作るように

 改めて、申し付けておきましたよ

 元気になって、体が軽くなって

 ツバメみたいに舞い踊れるやつ」


「あら、そうですの?

 でも、もしまた失敗したら?」


「ミンチにして、餃子にして、ブタさんのエサにしちゃいます

 点心鬼さんも大変なんです、それぐらいで許してあげましょう」


にっこり笑う楊貴妃、牡丹の花が咲いたようです。

楊貴妃は、軽やかに舞い始めました。



一方、考えのまとまらない点心鬼。

直感的に考えるのは得意ですが、熟考するのは苦手です。

それで楊貴妃の様子を盗み見にきたのですが、そこで見たモノは、


─ 部屋のなかなのに、仙山が有る!

─ しかも仙山を、鳳凰が舞い飛んでいる!


皇帝が鳳凰を飼っているというウワサは本当だったのか?

いえ、仙山ではありません、部屋の中です。

鳳凰ではありません、楊貴妃の舞いです。

楊貴妃が舞うと、部屋の中がやたらと広く見えるのでした。

点心鬼の直感が発動、決まりました。

鳳凰の肉で餃子を作りましょう。


新宮市の蓬莱山@阿須賀神社

さっそく同僚に相談。


「ねえ、鳳凰の肉あるかな?」


「今ちょっとないなぁ、仕入れなきゃ」


「どこで仕入れるの?」


「いつものスーパーには無いんだよね

 でも心配ない、蓬莱山に行ってみろ

 掃いて捨てるほどいるから」


「あそっか、蓬莱山か」


徐福伝説によると蓬莱山は和歌山県のあたりにあるようですが、遠くて行けません。

代わりに雄鶏を使うことにしました。

(雄鶏の方が、肉が柔らかい)

ついでに徐福さんのお墓

手羽先の肉で形状は鳳凰型、ていねいに蒸しあげます。



餃子の入った蒸篭、見下ろす楊貴妃。

傍らには、再びチマキにされた点心鬼。

点心鬼さんの目は、もう死んだ魚のようになっています。


澄ました楊貴妃の凄艶な顔。

蒸篭のなかの餃子を見て、僅かに微笑む。

点心鬼さんの黒目が戻ってきました。


鳳凰型の餃子、縁起がいい。

皇后の位を拝命できそうな予兆を感じます。

貴妃』とは、楊貴妃のために唐玄宗が創設した、皇后の次に位置する職名です。

38歳で早世した楊貴妃は、最期まで皇后にはなりませんでした。


餃子を食べて浮かべた満面の笑みの楊貴妃。

点心鬼さんは、もうアタマのなかが真っ白。


「ありがとう、点心鬼さん

 これからも、わたくしに

 蒸し餃子を作ってください」


点心鬼をまっすぐに見つめて仰る楊貴妃に、点心鬼は目を逸らすコトができない。

脳内でドーパミンが噴出、アタマの中で閃光がはじけました。


楊貴妃は点心鬼に絹と黄金を賜ったのですが、

そんなもの、目に入らない。

楊貴妃のような女性にまっすぐ見つめられ、声をかけられたら、

男なんてひとたまりもありません。


心酔、まさしく酔ったような心持ち。

こうして、楊貴妃の下僕がまたひとり、増えたのでした。




西安の餃子宴、唐代の舞台を観覧しながら餃子を食べまくるというディナーショウが有るのですが、その由来として語られるお話でした。

なんでも、楊貴妃のサインやツーショット写真もOKだそうです。


楊貴妃の好物、ライチと春瓜。

この春瓜が何だか、よくわかりませんでした。

そんな名のフルーツは無いのですが、青物市場の分類には『春瓜』という語がないわけでもない。

おそらくは春野菜か、もしくは春に取れるフルーツ全般であろうかと思うのですが。

案外、春スイカだったりして。


楊貴妃のライバル、それは皇后の梅妃。

楊貴妃はかなり熾烈なバトルを梅妃に仕掛けました。

活発な性格の楊貴妃は牡丹の花に例えられ、梅妃は名のとおり梅に例えられます。

結果は楊貴妃の勝利でしたが、でも日本人なら梅妃に肩入れしたくなるかもです。


その梅妃が楊貴妃を称して、『肥婢』よばわりしました。

それが悪口であるとも限らないのですが。


「だから、楊貴妃はデブだった」


なんて説がありますが、そんなの全然違います。

楊貴妃はデブではなく、肉感的でセクシーだったに決まっています。

深田恭子だって、唐の時代にタイムスリップしたら「おデブちゃん」と呼ばれることでしょう。

うん、深田恭子の楊貴妃が見たいなあ、梅妃は綾瀬はるかで、もちろん入浴シーン付きね。


梅妃も楊貴妃も最期は非業の死、梅妃は「敵の辱めは受けない」と井戸に身投げ、楊貴妃の死因は謎ですが、通説では玄宗皇帝の手で縊死。

なのに唐玄宗は生きていた、ちょっとあれなので、ここでは皇帝を楊貴妃の下僕にしてみました。




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