凄艶な楊貴妃の怒り、命懸けで餃子を作る点心師
貴妃の舞
(餃子@楊貴妃)
前のお話し:【愛情月餅】(中秋伝説)
餃子宴の舞台 |
「わたし、ライチが好き」
その女性はきっと、しっとりとした素敵なお姉さん。
そんな印象があります。
だ~いじょ~ぅぶ~、全然まちがってません。
ライチ、春瓜、それは楊貴妃の好きなモノだから。
そして楊貴妃に欠かせないモノ、それは餃子。
あのプリプリした食感、思い出したらガマンできない。
楊貴妃は餃子中毒なのでした。
中華での楊貴妃の扱いってば・・ |
そんな時には玄宗皇帝、大慌てで厨房に走ります。
餃子を注文すると、また大急ぎで戻る。
ヒステリーを起こした楊貴妃、美しいのです。
楊貴妃は宮廷音楽家
芸術家とは、感情の起伏が激しいもの
創造の苦しみ故に、感情の爆発を許されしアーティスト
喜怒哀楽脾苦、楊貴妃はその全てが美しい
色と姿がくるくる変わる、舞い踊るアクティブな花
楊貴妃を見ていると、玄宗皇帝の中の芸術魂が触発されるのです。
「おーい、餃子ぁー、大至急~」
「へーい、餃子1丁、よろこんでぇー」
すぐに手が動いて、餃子を作り始めます。
その日の点心師は、命懸けで点心を作ると評判の職人、その名もヒト呼んで『点心鬼』。
注文を受けてから手が動きだすまでに、わずか2秒。
その間に、
貴妃が食される餃子だな
帝とは、豊満な女性がお好きなものだ
楊貴妃も『肥婢』と称されるお方
だからこそ、貴妃になられた
うんよし、もっとお肥り頂こう
きっとご満足頂けるぞ
これだけの思考が働いている。
心構えがちがいます。
楊貴妃だから、焼きギョーザを齧りながらビールをグイッなんてやりません。
ギョーザのくせに上品な、蒸し餃子。
ブタの脂身を効かせて、ニラたっぷりの餃子を包み、蒸しあげます。
形状はカエル型にしてみました。
自信たっぷり、楊貴妃にお出しします。
顧客の満足がなにより大事な点心鬼さん、
(お褒め頂けるかも、うふっ)
ドアの外でこっそり、楊貴妃の様子を覗います。
うにゃ?
ふぎゃーーーー
どどどどどど
バンっ
ガシャーーーン
ふおおおおぉぉぉ
様子がヘンです。
こっそり点心鬼さんが逃げようとした、その時。
ぼこっ
カベをぶち破って、ターミネーター T-800型、
じゃなくって、最終兵器のような厳つい衛士が飛び出てきました。
なんかチビっちゃいそうです。
衛士は点心鬼さんを見留めると、グルグル巻きのチマキにして柱に縛りつけます。
チマキとは、端午の節句なんかに食べるモノです。
ゴハンやモチを、竹皮で包んで作ります。
中華では「簀巻きにする」を、「チマキにする」と表現します。
点心鬼さん、チビっちゃいました。
楊貴妃は、例の蒸し餃子をひとくち召し上がり、
ぴゅっ、と吐き出し、仰ったのです。
「やだっ・・・・
・・・肥り死に・・・
・・・させる気かしら」
華清池の楊貴妃のお風呂 |
そうはー
イカのキン○マー
タコがひっぱるー
「コレをーー
作ったのはーーー
あの、点心犬だなぁーーーー」
楊貴妃の怒り、凄絶な美しさ、ちゃぶ台をひっくり返しざま、
「あの点心犬をひっつかまえて
ふん縛れーーーーーーーーーー」
最終兵器が吼えながら飛び出してきた、というワケでした。
協議の結果、お昼ゴハンが終わってからオヤツの前に処刑。
そう決まりました。
さすがは、命を懸けた点心鬼さんです。
そこへやって来たのが、玄宗皇帝。
なにやら楽譜を手にして、振り回しています。
スキップをしてます。
これは、ハイテンションの芸術家モード。
絶望的です。
「おお、これはチマキだ、チマキがあるぞ」
「これは皇帝陛下、万歳(ワンツイ)、万歳(ワンツイ)、万万歳(ワンワンツイ)」
「さすが命懸けで点心を作ると評判の点心鬼
これは、チマキの気持ちを知るためだな」
「いえ違います、すぐに頸(くび)を斬られてしまうのです」
「なんだ、荒巻ジャケの練習か、じゃっ」
「ああー、まって、まって、まってー」
「 なに? 」
「 その楽譜は何ですか? 」
うまいとこをつきました。
玄宗皇帝は中秋節の夜、道士に連れられて月へ行き、嫦娥仙子の歌を聴いたのでした。
月宮で聞き覚えてきたその曲を、やっと譜面に落としたのだといいます。
「いまからね、うふっ
自分で演奏してね、ちゃはっ
楊貴妃ちゃんにね、舞ってもらうの」
「いいなー、私も観たいなー」
「だめっ、どうせ変な餃子作って
お仕置きされてんだろ」
「なんで分かるんですか?」
「楊貴妃ちゃんのコトはね、なんでもわかるの」
下僕の匂い。
周囲には窺い知れない、玄宗皇帝と楊貴妃の不思議な関係。
思うに、玄宗皇帝も楊貴妃に、チマキにされたことがあるのかもしれません。
「そんなぁー」
「・・・、キミは丸い月は?」
「 えっ? 」
「丸い月は嫌いか?」
「・・・大嫌いです・・・
月は十六夜に限ります」
「OK、許してやろう
もう1回、餃子を作ってみなさい」
さすがは点心鬼、皇帝の変なクセを知っていました。
厨房に走りかえって、今度は熟考します。
玄宗皇帝は楊貴妃のもとを訪れて、
玉笛をおもむろに取り出して、
さあ舞っておくれと、『霓裳羽衣(げいしょううい)の曲』を吹き始めます。
ところが楊貴妃、微動だにしない。
これはレッドアラート、『警戒警報発令』、玄宗皇帝は顔を蒼ざめながら慎重に、
「楊貴妃ちゃん、なんでも言ってごらん
どうしたのかな?」
「アンタの点心鬼さんたら・・・
・・・あんな油まみれの餃子・・
ワタシ肥ってしまって、舞えません」
それなら、だいじょうぶ。
「もう新鮮な餃子を作るように
改めて、申し付けておきましたよ
元気になって、体が軽くなって
ツバメみたいに舞い踊れるやつ」
「あら、そうですの?
でも、もしまた失敗したら?」
「ミンチにして、餃子にして、ブタさんのエサにしちゃいます
点心鬼さんも大変なんです、それぐらいで許してあげましょう」
にっこり笑う楊貴妃、牡丹の花が咲いたようです。
楊貴妃は、軽やかに舞い始めました。
一方、考えのまとまらない点心鬼。
直感的に考えるのは得意ですが、熟考するのは苦手です。
それで楊貴妃の様子を盗み見にきたのですが、そこで見たモノは、
─ 部屋のなかなのに、仙山が有る!
─ しかも仙山を、鳳凰が舞い飛んでいる!
皇帝が鳳凰を飼っているというウワサは本当だったのか?
いえ、仙山ではありません、部屋の中です。
鳳凰ではありません、楊貴妃の舞いです。
楊貴妃が舞うと、部屋の中がやたらと広く見えるのでした。
点心鬼の直感が発動、決まりました。
鳳凰の肉で餃子を作りましょう。
新宮市の蓬莱山@阿須賀神社 |
さっそく同僚に相談。
「ねえ、鳳凰の肉あるかな?」
「今ちょっとないなぁ、仕入れなきゃ」
「どこで仕入れるの?」
「いつものスーパーには無いんだよね
でも心配ない、蓬莱山に行ってみろ
掃いて捨てるほどいるから」
「あそっか、蓬莱山か」
徐福伝説によると蓬莱山は和歌山県のあたりにあるようですが、遠くて行けません。
代わりに雄鶏を使うことにしました。
(雄鶏の方が、肉が柔らかい)
ついでに徐福さんのお墓 |
手羽先の肉で形状は鳳凰型、ていねいに蒸しあげます。
餃子の入った蒸篭、見下ろす楊貴妃。
傍らには、再びチマキにされた点心鬼。
点心鬼さんの目は、もう死んだ魚のようになっています。
澄ました楊貴妃の凄艶な顔。
蒸篭のなかの餃子を見て、僅かに微笑む。
点心鬼さんの黒目が戻ってきました。
鳳凰型の餃子、縁起がいい。
皇后の位を拝命できそうな予兆を感じます。
『貴妃』とは、楊貴妃のために唐玄宗が創設した、皇后の次に位置する職名です。
38歳で早世した楊貴妃は、最期まで皇后にはなりませんでした。
餃子を食べて浮かべた満面の笑みの楊貴妃。
点心鬼さんは、もうアタマのなかが真っ白。
「ありがとう、点心鬼さん
これからも、わたくしに
蒸し餃子を作ってください」
点心鬼をまっすぐに見つめて仰る楊貴妃に、点心鬼は目を逸らすコトができない。
脳内でドーパミンが噴出、アタマの中で閃光がはじけました。
楊貴妃は点心鬼に絹と黄金を賜ったのですが、
そんなもの、目に入らない。
楊貴妃のような女性にまっすぐ見つめられ、声をかけられたら、
男なんてひとたまりもありません。
心酔、まさしく酔ったような心持ち。
こうして、楊貴妃の下僕がまたひとり、増えたのでした。
西安の餃子宴、唐代の舞台を観覧しながら餃子を食べまくるというディナーショウが有るのですが、その由来として語られるお話でした。
なんでも、楊貴妃のサインやツーショット写真もOKだそうです。
楊貴妃の好物、ライチと春瓜。
この春瓜が何だか、よくわかりませんでした。
そんな名のフルーツは無いのですが、青物市場の分類には『春瓜』という語がないわけでもない。
おそらくは春野菜か、もしくは春に取れるフルーツ全般であろうかと思うのですが。
案外、春スイカだったりして。
楊貴妃のライバル、それは皇后の梅妃。
楊貴妃はかなり熾烈なバトルを梅妃に仕掛けました。
活発な性格の楊貴妃は牡丹の花に例えられ、梅妃は名のとおり梅に例えられます。
結果は楊貴妃の勝利でしたが、でも日本人なら梅妃に肩入れしたくなるかもです。
その梅妃が楊貴妃を称して、『肥婢』よばわりしました。
それが悪口であるとも限らないのですが。
「だから、楊貴妃はデブだった」
なんて説がありますが、そんなの全然違います。
楊貴妃はデブではなく、肉感的でセクシーだったに決まっています。
深田恭子だって、唐の時代にタイムスリップしたら「おデブちゃん」と呼ばれることでしょう。
うん、深田恭子の楊貴妃が見たいなあ、梅妃は綾瀬はるかで、もちろん入浴シーン付きね。
梅妃も楊貴妃も最期は非業の死、梅妃は「敵の辱めは受けない」と井戸に身投げ、楊貴妃の死因は謎ですが、通説では玄宗皇帝の手で縊死。
なのに唐玄宗は生きていた、ちょっとあれなので、ここでは皇帝を楊貴妃の下僕にしてみました。
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