2017-09-23

愛情月餅(中秋伝説@上海)

 月の魔力に魅入られた男の末路 

 愛情月餅 

 (中秋伝説@上海) 



50年代、魔都上海

月の魔力貴方は信じますか?


え、信じない?

月の魅力なら信じる?

いえ、いいんですけど、失礼しました。


パワースポットは信じますか?


え、気分の問題?

遊びに行くための口実?

あ、いや、それで正しいと思います。


月餅(げっぺい)というものは、皆様、祭月の主力用品です。

嫦娥仙子が創り、玄宗皇帝が世に広め、楊貴妃が名付けた月餅には、とんでもない魔力があるのです。

こういったフォースの宿る特定の物品を、「パワーマテリアル」といいます。

ごく近代に、それを指し示す逸話があるのです。



50年代、上海。

とある大学に相思相愛の男子学生と女学生がおりました。

まあその時代は大学なんてあんま無いですから、ほとんど特定できちゃうんですけど、F大学とか。 復旦大学はあの孫文が初代理事長だったりします。


でも、学則で校内恋愛が禁止なのでした。

とんでもない規則です。


校内恋愛禁止なんて校則は、人権蹂躙の憲法違反です。

せめて『学内で愛を確かめ合うのは禁止』ぐらいにすべきです。

いやむしろ、『愛を確かめ合う施設』を学内で提供したら、少子化問題が解決なのです。

さらに「愛を確かめ合う施設の使用基準」を、ある程度の学力以上と定めたら、きっと学力低下問題まで解決しちゃいます。


大学側は再三、勧告を出し警告をしもするのですが、若いふたりは止まらない。

却って、もっと仲良しになっちゃうのでした。

とうとう男は、卒業を待って『流放』となりました。


流放(リュウファン)とは、「不都合な人物は遠くに左遷しちゃっていいよ」、というトンデモ制度です。


それが50年代の上海にはあったのです。

2360年ほど昔の、チマキの屈原の時代にもありました。

現代の日本にもあるような気がします。


女は恩情により、上海に居残ることが許されました。

つまりは、ふたりを強制的に引き離そうとしたのでした。

しかし、ところが、女は男についていってしまったのです。


半端な遠さではありません。

上海からは、中華の国の西北方向に反対側、モンゴルとの国境付近です。


モンゴルって仏教国なんですって?

ここ、原話では「蒙古」となってたんですが、モンゴルはもともと独立国。

現在も上半分は独立国ですから、モンゴル国境付近にしておきます。

モンゴル自治区とチベットもそろそろ、どうでしょう?

キンペーちゃん、それやって、軍縮もやったら、ノーベル平和賞請け合いですよ。

あっと失礼、ノーベル賞にはご興味ない?

え、逆に監禁されちゃう?


で、ふたりはモンゴル国境付近のゲル(天幕住居)の中で、


 卿卿我我(チンチンウォーウォー) 


ゲルの中、両側にベッドで男女別

えー、他に娯楽もないですから・・、つまりその・・、ナニしながら過ごしたわけです。

卿卿(チンチン)とは、これは古い言葉で、夫婦の互いの呼び名です。

とーちゃん、かーちゃん、って感じの。

卿卿我我(チンチンウォーウォー)で、「男女間の情愛の濃い、すごーく親密なさま」を表します。


まあ実際には、仲の良いカップルを揶揄する時に使ったりするんですが。

男性器のことを「ちん○ん」といいますね。

その語源は、貴重なモノだからの「珍棒」だとか。

全然納得できません。

ひょっとしたら、卿卿(チンチン)が語源じゃないかと思います。


そうして、苦しくも甜い日々が続くのでした。

3年後の自然災害で、たぶん旱魃か冷夏あたりでしょう。

食料が乏しくなりました。


その日は、中秋節。 

勤務先からは、一家に一個づつ月餅が配給されました。

歳時記というものを大切にする、好い風習です。

少子化政策まっさかりの頃は、コンドームも配給されたそうです。


男は先に仕事を終えて、月餅を貰って帰宅しました。

女が帰宅するのを待ちます。

苦難を共にしたかけがえのない愛する女性、一緒に過ごす月餅1個のイベント。

ちょっとロマンチック、女は焦らすように、なかなか帰ってきません。


豊岡の「日本-モンゴル民族博物館」で拾ってきた写真です
テーブルの上に月餅が1個。 

愛する女性を待ちきれなくなった男。

月餅を切って、先に半分食べてしまいました。

女はまだ帰ってきません。


テーブルの上に月餅が半分。 

男は考えます。

もし今、女が帰ってきたら何と言うでしょう?


「も~ぉ、あんたったら~」とか言いながら、きっと半分わけてくれるに違いありません。

男は月餅を、もう半分に切って食べてしまいました。

女は帰ってきません。


テーブルの上に、月餅が四半分。 

まだ帰らぬ女を気遣って、男は外を見てみました。

外には煌々と照る、まん丸の満月、


月餅のマテリアルパワー

満月の魔力、月餅のマテリアルパワー、 


戻ってきた男の、手が延びる。 


「回来了~(フイライラー) 


女がやっと、帰ってきました。

ビクつきうろたえる男、女は嬉しそうに、


月餅、もらったんですって」 


お、おれ・・、おれは・・・」 


その時、女は男を責めることはありませんでした。

ただ半日、ひとことも口を聴かなかっただけでした。

そして、


「なによ、あんた

 アンタのために、全部犠牲にしたのよ

 ワタシ

 それが、なによ

 ワタシのこと考えてるの?

 信じらんない

 月餅の半分もダメなの

 しょうがないわね

 もうわかったわよ


怖ろしい、これは怖ろしい

何がって、

半日、口を聴かないのが怖い。

喋りだしたら、男の反論を許さないのが怖い。

それでも、もう、わかってしまうのが怖い。


男はこういう場面が、ヘビを踏むより怖ろしいのです。

その怖ろしさは、ゴキブリが飛んだ時に匹敵するのです。

女は衣服を纏めて、その日のうちに上海に帰ってしまったということです。


学則も、勧告も警告も、そして流放さえもが崩せなかった男女の愛も、たった1個の月餅の魔力に潰えてしまう

月餅の魔力、あなどってはなりません。

チャンチャン♪






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