月の魔力に魅入られた男の末路
愛情月餅
(中秋伝説@上海)
前のお話し:【虹色羽衣の曲】(中秋伝説)
50年代、魔都上海 |
月の魔力、貴方は信じますか?
え、信じない?
月の魅力なら信じる?
いえ、いいんですけど、失礼しました。
パワースポットは信じますか?
え、気分の問題?
遊びに行くための口実?
あ、いや、それで正しいと思います。
月餅(げっぺい)というものは、皆様、祭月の主力用品です。
嫦娥仙子が創り、玄宗皇帝が世に広め、楊貴妃が名付けた月餅には、とんでもない魔力があるのです。
こういったフォースの宿る特定の物品を、「パワーマテリアル」といいます。
ごく近代に、それを指し示す逸話があるのです。
50年代、上海。
とある大学に相思相愛の男子学生と女学生がおりました。
まあその時代は大学なんてあんま無いですから、ほとんど特定できちゃうんですけど、F大学とか。 復旦大学はあの孫文が初代理事長だったりします。
でも、学則で校内恋愛が禁止なのでした。
とんでもない規則です。
校内恋愛禁止なんて校則は、人権蹂躙の憲法違反です。
せめて『学内で愛を確かめ合うのは禁止』ぐらいにすべきです。
いやむしろ、『愛を確かめ合う施設』を学内で提供したら、少子化問題が解決なのです。
さらに「愛を確かめ合う施設の使用基準」を、ある程度の学力以上と定めたら、きっと学力低下問題まで解決しちゃいます。
大学側は再三、勧告を出し警告をしもするのですが、若いふたりは止まらない。
却って、もっと仲良しになっちゃうのでした。
とうとう男は、卒業を待って『流放』となりました。
流放(リュウファン)とは、「不都合な人物は遠くに左遷しちゃっていいよ」、というトンデモ制度です。
それが50年代の上海にはあったのです。
2360年ほど昔の、チマキの屈原の時代にもありました。
現代の日本にもあるような気がします。
女は恩情により、上海に居残ることが許されました。
つまりは、ふたりを強制的に引き離そうとしたのでした。
しかし、ところが、女は男についていってしまったのです。
半端な遠さではありません。
上海からは、中華の国の西北方向に反対側、モンゴルとの国境付近です。
モンゴルって仏教国なんですって? |
ここ、原話では「蒙古」となってたんですが、モンゴルはもともと独立国。
現在も上半分は独立国ですから、モンゴル国境付近にしておきます。
モンゴル自治区とチベットもそろそろ、どうでしょう?
キンペーちゃん、それやって、軍縮もやったら、ノーベル平和賞請け合いですよ。
あっと失礼、ノーベル賞にはご興味ない?
え、逆に監禁されちゃう?
で、ふたりはモンゴル国境付近のゲル(天幕住居)の中で、
卿卿我我(チンチンウォーウォー)
ゲルの中、両側にベッドで男女別 |
えー、他に娯楽もないですから・・、つまりその・・、ナニしながら過ごしたわけです。
卿卿(チンチン)とは、これは古い言葉で、夫婦の互いの呼び名です。
とーちゃん、かーちゃん、って感じの。
『卿卿我我(チンチンウォーウォー)』で、「男女間の情愛の濃い、すごーく親密なさま」を表します。
まあ実際には、仲の良いカップルを揶揄する時に使ったりするんですが。
男性器のことを「ちん○ん」といいますね。
その語源は、貴重なモノだからの「珍棒」だとか。
全然納得できません。
ひょっとしたら、卿卿(チンチン)が語源じゃないかと思います。
そうして、苦しくも甜い日々が続くのでした。
3年後の自然災害で、たぶん旱魃か冷夏あたりでしょう。
食料が乏しくなりました。
勤務先からは、一家に一個づつ月餅が配給されました。
歳時記というものを大切にする、好い風習です。
少子化政策まっさかりの頃は、コンドームも配給されたそうです。
男は先に仕事を終えて、月餅を貰って帰宅しました。
女が帰宅するのを待ちます。
苦難を共にしたかけがえのない愛する女性、一緒に過ごす月餅1個のイベント。
ちょっとロマンチック、女は焦らすように、なかなか帰ってきません。
豊岡の「日本-モンゴル民族博物館」で拾ってきた写真です |
愛する女性を待ちきれなくなった男。
月餅を切って、先に半分食べてしまいました。
女はまだ帰ってきません。
男は考えます。
もし今、女が帰ってきたら何と言うでしょう?
「も~ぉ、あんたったら~」とか言いながら、きっと半分わけてくれるに違いありません。
男は月餅を、もう半分に切って食べてしまいました。
女は帰ってきません。
まだ帰らぬ女を気遣って、男は外を見てみました。
外には煌々と照る、まん丸の満月、
月餅のマテリアルパワー |
満月の魔力、月餅のマテリアルパワー、
戻ってきた男の、手が延びる。
「回来了~(フイライラー)」
女がやっと、帰ってきました。
ビクつきうろたえる男、女は嬉しそうに、
「月餅、もらったんですって」
「お、おれ・・、おれは・・・」
その時、女は男を責めることはありませんでした。
ただ半日、ひとことも口を聴かなかっただけでした。
そして、
「なによ、あんた
アンタのために、全部犠牲にしたのよ
ワタシは
それが、なによ
ワタシのこと考えてるの?
信じらんない
月餅の半分もダメなの
しょうがないわね
もうわかったわよ」
怖ろしい、これは怖ろしい。
何がって、
半日、口を聴かないのが怖い。
喋りだしたら、男の反論を許さないのが怖い。
それでも、もう、わかってしまうのが怖い。
男はこういう場面が、ヘビを踏むより怖ろしいのです。
その怖ろしさは、ゴキブリが飛んだ時に匹敵するのです。
女は衣服を纏めて、その日のうちに上海に帰ってしまったということです。
学則も、勧告も警告も、そして流放さえもが崩せなかった男女の愛も、たった1個の月餅の魔力に潰えてしまう。
月餅の魔力、あなどってはなりません。
チャンチャン♪
次のお話し:【貴妃の舞】(餃子@楊貴妃)
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