2017-06-16

骨を売る肉屋(排骨酢豚@済公さん)

 お肉屋なのに肉がない「肉がないなら骨を売れ」瘋癲の不良和尚 

 骨を売る肉屋 

 (排骨酢豚@済公さん) 

[関連・参考]【メモ】排骨酢豚


無錫を太湖から

酢豚といえば広東料理、野菜が入ってパイナップルが絶妙です。

パイナップルに賛否両論はあるものの、本来は野菜もパイナップルも入りません。

骨付きの豚肉、つまりスペアリブだけで、お酢は黒酢を使います。


この酢豚の起源は、広東ではなく江南地方の無錫(ウーシー)の、無錫排骨(ウーシーパイクー)でした。



上海のちょっと上に大き目の湖がありますが、この太湖(タイフー)のほとりに蘇州があります。

蘇州のすぐうえが無錫(ウーシー)で、同じく太湖(タイーフー)のほとりの水郷です。

さらに遡って長江沿いまでいったら、鎮江(ツェンチャン)があり、鎮江では黒酢が特産品です。


その間には常州や揚州もありますが、杭州、上海、蘇州、無錫、鎮江は、大運河で長江まで繋がっています。

現代でも船便があるそうなので、一度、このあたりを船旅してみたいものです。


無錫排骨(ウーシーパイクー)は、醤油と砂糖と香料でスペアリブを煮込んだものです。

これに、鎮江の黒酢を使った酢豚が、江南料理の糖醋排骨(タンツーパイクー)です。

糖醋排骨

“排骨(パイクー)”はスペアリブのことで、ラーメンの上に揚げた肉の乗った「パーコー麺」ってありますよね。

“パーコー”=“排骨”で、日本ではたいてい骨は取ってありますが、パーコー麺も本来は骨付き肉を使います。


以前は、第二神明(注:地元の自動車専用道路)の明石(あかし)サービスエリアに、パーコー麺があったのですよ。

今は、丸亀製麺になっちゃって、無くなっちゃいました。

美味しかったのに、残念です。



今日はツイてない、そんな日があるものです。

済公さん@テレビドラマ

肉屋のオヤジさんも、朝からそう思っていました。

売り物の羊肉を、野良犬に泥棒されて食べられてしまったのです。


「あの犬、今度見つけたら喰ってやる

 鴨肉はカアちゃんが、自分で食べちゃうし、

 もう豚肉しか残ってないよー、あーどうしようー」


そんな事をぼやきながらオヤジさんが外を見ていると、ホームレスがふらふらとこちらにやってきました。


「やだなー、こっちにくるよ

 来るんじゃないぞ、ほらあっち行けよ」


肉屋のオヤジさんが見ていると、そのままふらふらと、どんどんこっちにやって来ます。

オヤジさんが見ているからこっちの来るんですが、ツイてない時はそんなものでしょう。

見てるからこっちに来るのに、それに気付かない。

あーあ、とうとう来っちゃった。


「あー、来ちゃったよー」

ホームレスさんは店の中にまで入ってきてしまいました。

ボロけた僧衣に破れた扇子と手にした瓢箪、瘋癲(ふうてん)和尚の済公さんです。


済公さんはただ、ニコニコ笑いながら手を差し出してきました。

お布施を寄越せということですが、お経のひとつもあげないんですから性質(たち)が悪い。


肉屋のオヤジさんは、ガックリきてしまいました。


「お金はないんだ、コレでも食えよ」

と、肉を一塊、済公さんに差し出しました。

済公さんは、肉をたいらげると、またくれといって手を出してくる。


気の抜けたオヤジさん、また肉を一塊。

そうくりかえすうちに、オヤジさんがハッと気付くと、もう肉がなくなってきています。


「あーもう、肉みんな食べちゃってー

 あしたから、何を売ったら、いいんだよぉ~」


済公さんはニコニコしながら、さわやかに、


じゃあ、骨でも売れよ

と言うや、破れ扇からホネを数本抜き出して、食べ残した骨を器用に結んで手渡した。


「これを、スペアリブと一緒に煮込んでみろ

 今日、ワシが食った肉は、倍にして返してやる」


何を言ってるんだか、冗談な風でもなさそうですが、だから却って性質が悪い。

オヤジさんにしたら、冗談じゃありません。

さんざん肉を食われて、その返礼が、破れ扇のホネが数本とは。

オヤジさんは疲れきった顔で、店じまいをいたしました。


「今日はもう、・・・、屁をこいて寝よう」


翌朝、肉屋のオヤジさんがテーブルを見ると、昨日の不良坊主が置いていった破れ扇のホネがある。

オヤジさん、変な気を起こします。


「ダメモトだよな、・・・、やってみるか」

破れ扇のホネと、あまった豚骨と、僅かに残った骨付きの肉を一緒に鍋に放りこみました。

するとたちまち鍋から、いかにも旨そうな匂いが吹き出してきます。


「ん・・・、なんだこりゃ?」

フタをあけて中をみると、鍋いっぱいにスペアリブが美味しそうに煮えていました。

口当りがやわらかく、味が濃厚で、馥郁とした香り。

実は肉は、骨付きのまま料理した方が、柔らかくって美味しかったのです。


その後、オヤジさんはスペアリブ料理の研究を重ね、この料理は無錫(ウーシー)の郷土料理となっていきました。

清朝末期になり商工業が発達して、他郷の人々の出入りが多くなってくると、無錫の名物料理として名を馳せることになります。



[関連・参考]【メモ】排骨酢豚




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