2017-07-12

神農記(7)炎帝斬龍剣

 斬龍剣を持つのは、神農架の木城に棲む炎帝神農 

 神農記(7)炎帝斬龍剣 

 (神農伝説) 


【前のお話し】神農記(6)木の魚 


神農架大九湖

高い山に囲まれ、奇跡のように澄んだ湖。

かつて天女が水浴びに降りてきた、そんな伝説を持っている。

神農が薬草を洗った湖、少なくともそれは本当なのだろう。

大九湖、神農の9つの薬鍋がこの湖になったのだと伝えられている。


それが今は ─ 


天を衝く瘴気、泥水が湧き立ち寿命が縮みそうな腥(なまぐさ)い突風が襲ってくる。

枯死した大木が骨のように、白く林立していた。

枯木というものは、虫たちが棲み風で分解して土に還るものだ。

それが堅く枯れたまま、ただ立ち続けている。


木の陰から盗み見る若い狩人の目の前で、また龍が火を噴いた。

火を噴いた龍に他の龍たちが襲いかかり、突如、湖水が高く吹き上がり、

吹き上がった水は落ちてこない。

高すぎてそのまま霧になってしまったものか、代わりに濃密な瘴気が降ってきた。

鉤爪で頭を押さえ込み頚もとに噛みつく、数頭の龍が縺れあい大石混じりの泥砂が吹き飛んできた。

そうやって相争う龍は、全部で9条いるようだ。


龍がただ争っているだけではない。

奴らは雲を呼ぶ。

天は黒雲に覆われ、地は瘴気に濡れ、時に水が落ちてくる。

あれは雨などではない、洪水が天から堕ちてくるのだ。

作物など育ちようもなく、わずかに育ってもすぐに流されてしまう。

里人の生活は逼迫していた。


頭から布団を引っ被ってくるまった。

あれは無理だ、矢を射掛けてみたことはある。

争い続ける龍どもに向け、一気に9連射、1発も外しはしない。

ウロコひとつ落とせなかった。

1条の龍がこちらに軽く火をひと吹き、あわてて逃げながら跳び伏せたのだが、ジュッと後頭部で髪が焼けた。

振り向いてみると龍どもは何事もなかったように争い続けていた。


あれは無理だ、泣きながら眠った。


どこか懐かしい感じのする老人、いや死んだ父親だろうか。

夢の中で、


「悪龍、斬るべし」


そう言っていた。

斬るのか、どうやって?

斬る』その言葉で思い出した、幼い頃、父親に聞かされた昔話。

神農渓(神農架の入口)

 その昔、龍を倒した英雄というものはあった

 龍を倒すには『斬龍剣』が不可欠だ

 斬龍剣の持主は ─ 神農架の木城に棲む炎帝神農


夜明け前から神農架に入った。

とんでもない絶壁と渓谷、誰でも入れるような所ではない。

代々この地の猟師である自分であればこそ入れるのだ。


木城があるという神農頂へ至る道はある。

ヒトが辿るべき道ではない、ケモノ道、絶えず頭上と背後に気を配りながら辿っていく。

いきなり前から獣に行き会うことなどはない、獣の方でヒトの気配を察して避けるからだ。

襲ってくるなら頭上か背後、狼などは露骨に後をつけてくる。


神農架には白い動物が多い、白鹿、白猿、白熊、白蛇。

アルビノなのか土地の固有種なのかは知らない。

白熊などはパンダに似ていてヒトと戯れるのが好きだから、固有種なのかもしれない。

白い獣は、掟により狩ってはならなかった。

神農架 

神農頂、木城なんか無かった。

斬龍剣?

ただの童話か、とんだ無駄足、バカな真似をした。

気持ちが疲れきると、体も動かなくなった。

冷杉の根元で、倒れ伏してしまった。


白髪の老人、


「あのクソ龍どもな、大蛇(おろち)だよ、あれは

 山で気を練りおって、

 九湖を己が仙池にしようとな、ああして争っておる」


手にした宝剣を差し出しながら、


悪龍、斬るべし


またバカな夢を見た。

だが手には剣を握っていた。

剣を振りかざしてみると、周囲の気温が2~3℃下がった。

寒い鉄。

斬龍剣、寒鉄でできた剣だった。


疲れきって動けない自分が中にいる。

別の何かが湧き上がり、体を衝き動かした。

神農架を一気に駆け下りる。

大九湖、湖面に降り立ち、龍どもと対峙した。


8条までは、斬り倒した。

最後の1条、例の火を吹くやつだ。

近づけない、剣で防ごうとするのだが、もう体中が火脹れでいっぱいだ。

髪は全部、焼けてしまった。

熱いというより痛い、そしてやたらと寒い、目だけはなんとか庇っている。

だがもう、幾らも持ちそうにない。

剣を投げる、それしかないのか。


その時、神農架の頂上で彩雲が湧き立った。

虹色の彩雲が降りてくる。

何体ものヒトが降ってきた。

いや、ヒトではない、手が3対に頭も3個コある。

頭上に彩雲、白髪の老人が厳しい顔つきで立っていた。

老人が袖をひと振り。


3面6臂の怪人どもが龍に踊りかかり、悪龍の動きが封じられた。

剣を投げた。

悪龍は細切れになって、湖岸に吹き飛んでいった。


地盤が隆起して、細切れの龍が幾つもの峰に変じていく。

斬龍剣、悪龍を遮るように、峰となって突き立っている。

あの怪人どもも湖を守護するように、大石に変じていた。


もう動けない、疲れきって動けない自分が還ってきた。

痛みも寒さも感じない、浮力を失い体が湖に沈んでいった。






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