満月酒の別れ、ついに法海和尚に調伏された白娘子
白娘子フォークロア(8)金の鳳冠
(白娘子)
雷峰夕照 |
翌年の元宵節(陰暦1月15日)、月が満ちて白娘子は子供を生みました。
色白で、ころころした感じの男の子、赤んぼの傍を許仙が離れようとしません。
くそ寒いのに鼻歌歌いながらオムツの洗濯なんかしてるし。
赤んぼが起きたら抱き上げ、寝たら寝たで寝顔をツンツン突いたりなんかしている。
「あんた居候なんだから、ちょっとはウチの用事しなさいよ」
姉が弟の許仙を叱り飛ばします。
「ごめん、ねーちゃん、今ちょっと忙しいから
もうすぐ起きるの、こいつ
あ、わるいけど哺乳瓶の消毒しといて」
どうにもしようがない、穀潰しの本領発揮。
ダンナさんも家に帰ってきたら、許仙や小青と一緒に赤んぼツンツンして喜んでるんだから文句も言えない。
許仙の姉も、苦笑するしかありません。
白娘子は産後の肥立ちの真っ最中だし、小青が雑用をしてくれるといっても、
この頃、一番大変なのは許仙のお姉さんだったことでしょう。
中華では生まれてから1年間は、出生日が毎月毎月ぜんぶ誕生日。
この子だったら1月15日生まれ、だから2月15日も、3月15日も、ぜんぶ誕生日として扱います。
中華で誕生日に食べるもの、それはラーメン。
いえ、本当です。
湯餅会(タンピンフイ)と称するラーメンパーティーをやるのです。
もちろん現代ならケーキだってちゃんと出ます。
でも、ラーメンも出てきます。
(この場合のラーメンを長寿麺(ツァンソウミェン)といいます)
そして、一番大事なのはやはり生後1ヶ月。
満月酒(マンユェチュー)という儀式をやります。
出生したらその当日に、父親が岳父と岳母(女房の両親)に御報告をしておきます。
岳父と岳母は『満月酒』に、衣服や玩具、揺り篭なんかの子供用品をプレゼントします。
端的に言って子供のお披露目パーティー、親類縁者や友人を呼んで宴会をやるわけです。
許仙もやります、満月酒。
許仙は無職ですが、義兄の李仁(リレン)は立派な立派な官僚さん。
広く周知して、それはそれは盛大な満月酒になりそうです。
もう、湯餅会と満月酒の同時開催をやっちゃいます。
白娘子は早朝から起き出しました。
髪を梳き、紅を差して化粧を整えていきます。
傍らで見惚れる許仙、実姉と小青が宴会準備でバタついてるってのにねぇ。
清明節の西湖、遠くの雷鳴、そぼ降る雨の、小舟の中で、
出会った頃の恥ずかしそうに俯く白娘子、白梅のようでした。
保和堂のカウンターでお澄ましの白娘子、桃の花のよう。
今、白娘子が装いを終え衣装を纏いました。
小春日和の陽が窓から差して黒く光る髪、
凛として、それでいて柔らかな面立ち、
立っている、ただそれだけで暖かい、
開花した桜。
次は何の花が咲くのでしょう?
遠くで雑貨売りの呼び声、雑貨屋さんの流し売り。
グッドタイミング、聞きつけた許仙は飛び出していきました。
今日は親類や友人がいっぱい来るのに。
身の回りの品は全部、保和堂に置き去りです。
白娘子のアクセサリーだっていっぱい有ったのに。
せっかくの満月酒、母親の白娘子をもっと綺麗にせねば。
許仙の目を引いたのは、鳳冠でした。
それも金鳳冠、ちょっと大き目のティアラみたいな髪飾りです。
ラッキー、ツキが回ってきた、なんて考える根が無精者の許仙。
鎮江で真面目に働いていたのは、白娘子の尻に敷かれていただけです。
さっそく買い込んで、女房の許に馳せてゆく。
「かあちゃん、金鳳冠だよ、ほら
合うかなぁ、ちょっと被って見てよ」
胸に嬉しさが込み上げる白娘子、許仙に載せてもらいました。
金鳳冠が頭に吸い付く。
違和感、白娘子、脱ごうとするが脱げない。
髪ではなく頭に貼り付いている。
法海出現 |
金鳳冠が頭を締め付ける。
いや、吸い込もうとしているのか。
視界が暗くなり、昏倒する白娘子。
異常な金鳳冠、あの雑貨売りのオヤジは、まさか?
真っ青になり、外に飛び出す許仙。
家の前には、青龍禅杖を担いだ法海和尚が立っていました。
弄じた策が功を奏したのを知り、冷笑する法海和尚。
「月日が経つのは早いのう、もう満月酒で御座いますかな
聞き及んで、拙僧も御縁を賜ろうかと思いましてなあ
それにしても、人の助言を聞かぬ施主さまじゃ
今日こそお救い申し上げますぞ」
言いながら、家に押し入ってきました。
倒れたままの白娘子。
金鳳冠に手をかざし、気を当てる法海和尚。
金鳳冠が、金鉢に変じた。
それは法海和尚が盗み出してきた、あの如来さまの金鉢でした。
法海和尚の真言、輝き、光り始める金鉢。
金鉢の白光を浴びて、白娘子の躰が衣装の中で崩れていった。
騒ぎを聞いた小青が駆けつけ、法海和尚に跳びかかろうとしたが、白娘子はそれを制し、
永鎮雷峰塔では鎮められて終わり |
「あんた・・大事に・・ね
子供・・・お願い・・ね」
よろける許仙、どうしていいのか解らない。
声も出せずに、頷きながら、
抱き上げた子供に母親を見せようとしました。
でも生後1ヶ月、未だ目も開かぬ赤ん坊に母親が見えようはずもない。
この子は、母親の顔を知らないまま、
涙が溢れ出した白娘子の顔、徐々に縮んで小さくなっていく。
手を延ばそうとするが、その手はもう無かった。
白い蓮の花が散り
一筋の白煙
法海和尚は白蛇を金鉢に放り込んで、持ち去っていきました。
南屏山の浄慈寺、そのすぐ手前の『雷峰』。
そこに法海和尚は金鉢を埋めて、塔を建立しました。
後に、この塔は『雷峰塔』と名付けられます。
西湖水干、江潮不起。
雷峰塔倒、白蛇出世。
法海和尚の偈(げ,仏教の予言・定理)。
西湖の水が涸れるまで、
銭塘の涌潮消えるまで、
雷峰倒壊その日までは、
白蛇再び出ずる能わず。
西湖の湖水が流れ込む銭塘江では、満月の大潮には毎年、津波のような大逆流が起こります。
南米アマゾンのポロロッカの中華版、8月18日が潮神の誕生日なのでそんな大逆流が起こります。
毎年毎年それが分かっていて、見物人が何人も巻き込まれて流されるのが中華クオリティ。
法海和尚の偈の「江潮不起」は、この涌潮(海嘯現象)を指しているんだと思います。
大学のセンセーの訳本では「江湖起こらず」なんて訳でしたが、それじゃ「戦乱が起こらず」になっちゃうし。
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