字の書けないお兄さんが、むずかしいむずかしい科挙に合格
科挙考試及第法
(及第粥)
紫禁城の保和殿 |
字が書けない肉売りのお兄さん、帳面を付けるのに不便です。
そこで思いついたのがお得意さまの私塾の先生でした。
この先生は噂では大変に偉いお方らしい、さっそく字を教えてもらうことにしました。
さすがは偉い先生です。
先生は、お兄さんに3つも字を教えてくれました。
猪肉、猪肝、猪腸粉
それだけ、先生にしたら、帳面付けるならこれで十分だろう、という事なのですが。
ここで、“猪肉(ツゥーロウ)”は『ブタ肉』のことです。
イノシシは『野猪(イェツゥー)』になるのですが、では野ブタは?
うーん、たぶん、『野生猪(イェションツゥー)』、かな?
ある年、科挙の試験が開催されました。
科挙は例年定期的にやるのではなく、何年かに1度、誰かが思いついたら皇帝に許可もらって実施するだけですから、
これはチャンスです。
「功名は先祖の積徳によるものだ」がモットーのお兄さんも科挙に挑戦です。
試験用紙に堂々と書いたのが、「猪肉、猪肝、猪腸粉」の7文字でした。
ところが、科挙試験の主管が例の私塾の先生だったのでした。
解答用紙に堂々と書かれた「猪肉、猪肝、猪腸粉」の7文字。
お、これは、あのお兄さんだなと、ピンときた先生。
「よし、あのお兄さんを喜ばしてやれ」、と先生は自分で答案を書き換えた。
お兄さん、科挙試験の郷試合格。
科挙は全国区で募集ですから志願者も多い、なので3次試験まであります。
それぞれ、郷試、会試、殿試の3つ。
郷試に合格しても、会試の受験資格があるだけです。
私塾の先生ったらあとになってから、お兄さんがまた受験に来るのを恐れて、会試の主管に申し送ったのでした。
「もしも、『猪肉、猪肝、猪腸粉』の7文字を見かけたら、
その答案は宜しく宜しく、握り潰してください」
はたして会試の答案に有ったのでした。
『 猪肉、猪肝、猪腸粉』
これを見て、試験管はみんなで大笑い。
ですが、そこで会試の主管は忖度(そんたく)しちゃった。
あの郷試の主管は『宜しく、宜しく』と言っていた。
これはもしや、暗に『上手く取り計らってくれ』、というコトではなかろうか?
そこで,会試の主管は答案を自分で書き換えた。
お兄さん、科挙試験の会試合格。
会試に合格したら、進士と呼ばれ官僚抜擢、大変な権限を得ます。
いよいよ最終試験の殿試、北京の紫禁城で実施です。
肉売りのお兄さん、正装して気合を込めて出発。
でも、お兄さんは広州のヒトだから、北京はちょっと遠い。
なんとお兄さんは、試験の開始時間に間に合わなかったのでした。
広い広い紫禁城の、試験会場の保和殿の前で、呆然と立ち尽くすお兄さん。
日は傾き、頭上ではカラスが、アホーアホー。
そこをたまたま通りかかった王爺(王府の職員さん)が、「おや、これをどうぞ」と気の毒そうに提灯を1つ置いていきました。
まあ、科挙は過酷ですから、試験中におかしくなっちゃうヤツはよく出て来るわけです。
夕焼けの中、立ち尽くしたままうなだれるお兄さん。
ふらふらとした手つきで懐から筆を出し、
やおら空を見上げて、口をきりりと引き結び、
お兄さんの視線の先には、提灯が1個。
お兄さんは渾身の気迫をこめて、提灯に書き付けた。
『猪肉、猪肝、猪腸粉』
そうして、お兄さんは夕闇のせまる夕暮れのなかを、夕日に向かって駆けてゆきました。
なんとなく、紫禁城で西に向かって走ったら、外に出られないような気もするんですが。
殿試の主管が保和殿の玄関で、地べたにぽつんと置いてある提灯を見つけて、口をあんぐり。
なぜか、「猪肉、猪肝、猪腸粉」なんて書き付けてある。
これは、いったい何だろう?
でもこの提灯は正しく王府の物、これにはきっと何か深い事情が有るに違いない、ここはひとつ、
殿試の主管、忖度して答案を代筆。
お兄さん、科挙試験の殿試合格。
肉売りの仲間が、お兄さんに尋ねます。
「あんな難関の試験を3度も突破、いったいどうやったのだ?」
肉売りのお兄さんはへらへら笑いながら、
「猪肉、猪肝、猪腸粉」。
広州に、状元及第粥という豚モツのお粥があって、これに掛けた笑話です。
科挙に合格出来るという触れ込みで、日本では受験シーズンのトンカツにあたります。
替え玉受験に、数々のカンニングテクニックに、試験問題の漏洩、試験管の忖度。
科挙には不正も多かったですから、それを揶揄しているのかもしれません。
0 件のコメント:
コメントを投稿