2018-03-11

断橋残雪

 雪の降り積もる杭州西湖、黄昏時に訪れた老人  

 断橋残雪  

 (杭州)  



七不思議、そういうものは何処にでもあります。

杭州西湖の七不思議のひとつにあるのが、


 『途絶えてないのに断橋』 


橋の名称が『 断橋 』というだけ、別に、不思議でも何でもありません。

この断橋は唐代にはもう存在したようですが、当初は宝佑橋という小さな木の橋で、よく腐って落ちた。

西湖の孤山に行こうと思ったら、やはり断橋を渡りたい。

それがよく落ちるから、危なくて不便でしようがありません。

よく落ちた、だから「断橋」だろうかと思うのですが、それではロマンに欠けるようです。



断橋のたもとのあばら屋に、『 段 』という夫婦者が住んでおりました。

夫は西湖で魚を獲る川漁師で、妻は自家製のドブロクで商売をしていました。

ふたりとも大変に働き者で、そして善良。


なぜでしょうか?

善良な働き者は、たいてい報われない。

もっとも、この夫婦の貧乏には理由がありました。

自家製のお酒が全然おいしくなかったし、夫の漁の腕もわるかったのです。

それでもふたりは元気いっぱい、貧乏なんてドコ吹く風。


陽が落ちて、黄昏時。

黄昏(たそがれ)というのは、薄暗くて、そこに居るのが誰だかよく分かりません。

だから「誰ぞ彼」と呼びかけた。

故に、「たそがれ」というのですが、呼びかけに応じぬもの、それは物の怪(もののけ)と相場が決まっています。

(注:しまった、このネタは「君の名は」で・・)

その日の黄昏時に訪れたのは、ボロボロの服を着た白髪の老人でした。


─ 遠い旅をする者ですが 

─ 銭の持ち合わせもありません 

─ どうか一夜の宿を、恵んでくだされ 


杭州城は歩けばすぐそこですし、このあたりはお寺さんも多い。

なのでこれは少々怪しいのですが、この夫婦者は、


「宿ってなんだい、こんなボロ屋じゃ野宿も同然

 夜は、冷えるんだぞおー

 でもね、オレにはね、コイツが居るから

 抱っこして寝たら、寒くない」


「あんたはネコでも抱いていなっ!

 んなこと言って、おじーさん

 ホントは行くとこないんだろ

 宿なら幾晩でも恵まれな」


さあ遠慮は無用、はいったはいった、死ぬまで居たら、

ご褒美にお墓を作ってあげますよ。


似たもの夫婦、働き者で、善良で、腕が悪くて、貧乏でパワフル。

口も少々わるいようです。


西湖で苦労して苦労して、やっと捕まえた鯉が一尾。

ドブロクといっしょに、


「はいっ、 お供え物~」


とか言って、老人に差し出す。

ほんとに焼いただけの塩味の鯉と、変な酸味のあるドブロクと。

それだけ、売れ残りだから、お酒が発酵しすぎて半分お酢になっています。

健康には良さそうですが、実においしくない。


なのに、妙に楽しい。

ここまでやられたら、いかに怪しげな老人も遠慮ができない。

ドブロクを大椀に3杯飲み干して、ゴロンと横になり、

老人は気持ち良さそうに寝入ってしまいました。


微笑みながら、見つめあう夫婦者。


翌朝、本気で心配して引きとめる夫婦者。

白髪の老人は、女房に3個の赤い丸薬を手渡して言いました。

なにもないが、この酒薬だけはある、よかったら使ってみなされ。


─ ご親切には感謝の言葉もない 

─ でも、行かねばなりませんのじゃ 


雪の降る中、老人は木の小橋を渡っていきました。


「あはは、大丈夫かよ、あのじーさん」


「でも、ちょっと楽しかったね」


酒薬を3個とも酒樽にポイッと放り込み、夫婦者はまた貧乏ヒマなし、忙しい日常を始めます。


ところが、酒樽からの芳醇な香り。

中を見てみると、澄んだ紅色の輝き。

半分お酢の変な酸味が、爽やかな酸味に変わっている。

そんなお酒ができてしまいました。


『断家猩紅酒』と銘打ち売り出したお酒は杭州城下でも評判を呼び、夫婦者のアバラ屋は酒楼となりました。

自分たちの善行が招いた結果ですが、この夫婦者にはそういう思考回路がなかった。

いつかあの白髪の老人に出会ったら、お礼をしようと売り上げから少しづつ積み立てていきます。

そして、3年後の冬のある日。


その日、西湖には大雪が降りました。

相変わらず忙しく立ち働く夫婦者。

自分たちはヘタクソだからと、お客の応対、片付け物、洗い物なんかをしてまいす。

料理なんかは他人に任せているから、ちょっと見、誰が主人なのかよくわからない。

雪を衝いてやってきた老人は、そんな様子を見てニッコリ笑います。


「   あ    」


「じーさんじゃあないか」


「ほんとだ、おじーさん、久しぶり

 あれ、おじーさん、おデコが少し後退してるよ」


「あはは、じーさんでも成長すんのか?」


─ ああ、育ち盛りじゃからなあ 


夫婦者のペースも相変わらず、白髪の老人も精いっぱいのボケをカマします。

夫婦者は老人を招きいれ、


じーさんのおかげだ、ありがとう。

あたし、おじいさんの夢 、見ちゃったよ。

そーそー、じーさんがずっとこの家に居てさ、

死んじゃったから、お墓作る夢。

あはははは・・・


そして、この家はあんたの家だ、あんたのおかげでこの家がある、だからずっと居ろ。

居ていいんだと、話します。


翌朝、引き止める夫婦者に老人は、


─ いや、今度は帰らねばならぬ

─ なに、実はこのすぐ近くなのじゃ


実は老人は、この夫婦者をずっと前から知っていた、と話します。

老人のために積み立てた300両

それを見て白髪の老人は、弱点となるべき善良もここまで来れば強力、とつぶやき、夫婦者を叱り飛ばしました。


 老人ひとりに何用の大金か 

 もっと大事な使い道がありますぞ 

 そこにこそ、使いなされ 


老人を見送る、夫婦者。

老人が、雪の積もる中、木の小橋を渡っていきます。

足元を滑らせて尻餅をつく老人、老人の姿がふいに消えました。


「  あっ!  」


「 落ちたっ  」


駆け出す夫婦者、木の小橋がまた落ちたのです。

岸辺から湖を覗き込むと、老人は、静かに湖面に立っていました。


微笑みながら夫婦者に手を振り、湖面を去っていく白髪の老人。

唖然と見送る段夫婦、あの老人は、ヒトではなかったのか。


─ もっと大事な使い道がありますぞ 

─ そこにこそ、使いなされ 


老人のために積み立てた300両、もっと大事な使い道。

段夫婦は、また落ちてしまった木橋のかわりに、石の独孔環洞橋を架けました。


この橋は、『段家橋(トゥアンチャーチャオ)と名付けられたのですが、

後に転じて『断橋(トゥアンチャオ)となりました。


断橋残雪、西湖十景のひとつですが、

降り積もった雪が融け始める、日なたは融けて日陰には雪が残る、故に、橋が半分なくなったように見える。

だから断橋なのだ、ともいいます。





なんか、今年(2018年)雪が降って断橋残雪になったとか、ビデオがありました。

西湖再現断橋残雪美景、宛如仙境!(Youtube)



許嵩って歌手の有名な歌です。

 Lingering Snow on the Broken Bridge 断橋残雪(Youtube)




直感で評価⇒

0 件のコメント:

コメントを投稿