2017-04-30

盗仙桃(2)

 仙桃を盗み食いした者たち 

 盗仙桃の2 

 (寿桃) 



桃あんまん

伝説の世界では、西王母は天帝の娘だったり玉皇大帝の女房だったりするのですが。

信仰としての道教では、西王母は玉皇大帝より遥かに年上の格上で、お二人が夫婦だなんて有り得ません。

道教が本当に宗教かは怪しいのですが、人の規律としての道教はまあ宗教なのでしょう。

神話や伝説ではだいたい女性神の方が古くて格上、男性神が新参です。


そんな神さまも伝説の世界に来ると、こんな風に遊ばれる遊ばれる。

イエス様が太上老君の弟子だったり、観音さまと道教の女神さまがタッグを組んで妖物を退治したり。

まあ、セイント☆お兄さんみたいな事は昔からやっていた訳ですね。


今度、実写化するようですけど、セイント☆お兄さん。

あれが、キリスト教圏やイスラム教圏で受け入れられたら、世界平和に貢献しますよね。



西王母、目撃情報第2弾。


時は下って、漢代。

漢武帝(前漢7代目皇帝)は朝っぱらから、まだ薄寒いのに承華殿の前に突っ立っています。

今日も東方朔(とうほうさく)を相手に、なにやら下らない話しをしておりました。


「もう4月か、直ぐに端午節だなあ

 屈原(くつげん)が汨羅江(べきらこう)に入水して120年

 端午のチマキも、すっかり根付いて来たじゃないか」

 (メモ:この日はBC156年.屈原沈江はBC278年)


「はいはい、端午の節句に沈んだのは、屈原だけじゃありません

 蘇州では伍子胥(ごししょ)の紀念日だし、孝女曹娥が沈むのも5月5日

 第一、端午節は川に沈んだ人の記念日じゃないし」


「孝女曹娥が沈むって?、まあいいや

 (コイツのこったから、また未来の予言だろ)

 いや、だからさー、屈原も伍子胥も愛国者キャラだけどさー

 伍子胥のあれは、ちょっとねー、苛烈すぎるというかねー、

 端午は屈原の紀念日ぐらいにすんのがさ、ちょうどいいんだって」

(注:孝女曹娥の事件は後漢の時代なので、この時点では未来の出来事)


「朝っぱらから、何か変ですよ

 また、なんか企んでませんか?」


「んふふ、わかる?

 さっきね、青鳥がね、お知らせ持って来たの」


え、青鳥?、まさか!


もうすぐ来るよ


突然、一天俄(にわか)にかきくけこ、妖光で空が底光りを始めた。

サンピラーに沿って、大量の朝雲が承華殿をめがけて舞い降りてくる。

朝日の光柱現象、朝雲に隠れた未確認飛行物体、飛行物体には人影が、これは、


東方朔がびくっ


笙や鉦の妙なるテーマソングとともに降りてきたのは、大勢の仙女を引き連れた西王母。

西王母と東方朔

それを見て、東方朔がこっそり逃げ出そうとする。


一人の仙女を侍らせて、西王母が漢武帝の前まで降りてきて、ニッコリと、


「そこ、ちょっと、お待ち!


びくっ、東方朔が固まる。

振り返りながら、西王母にぎごちなくご挨拶。


「これは・・・王母娘娘(ワンムーニャンニャン)、お久りで・・」


「お久しぶりじゃないよ、アンタ、こんなトコに居たの?」


西王母は漢武帝に向き直り、悪戯っぽく笑いながら言った。


「この子はね、皇帝

 小さい頃は、よくウチの桃園で・・

 ・・・・・・・・遊んでましたのよ」


じろっ、漢武帝が横目で東方朔を睨む。

ぎくっ、すっかり固まった東方朔が言い訳をする。


「いや、あれは、本当に遊んでただけですよ

 蟠桃なんて、食べてやしませんとも」


漢武帝と西王母が東方朔に向き直り、同時に言った。


お前、食べたな!

アナタ、食べましたね


東方策、「実は西王母の仙桃を食べた」疑惑の不祥事発覚。

冷や汗だらだらの東方朔に、西王母と漢武帝は大爆笑。


「うぷぷぷぷ、やっぱりな、ぷぷっ、

 前からお前、妖しいと思ってたんだよなー」


「こんな子ですけど、皇帝

 お傍でよろしくお願いいたしますね

 皇帝にも蟠桃をお持ちしましたよ」


先の蟠桃会の残りですけど、どうぞと仙女が4個の蟠桃を差し出した。

これは、旨い、というか。


口唇がふわりと溶ける感触。

噛んだとたんに口の中で昇華する果実。

鼻腔が浄化して、食べるほどに舌の根や歯根までもがスッキリと爽やかになってくる。

半分はとっておこう、1個は残しておこう、と思いながらも漢武帝は結局全部食べてしまった。

もう、脳髄から背骨から足指の骨の先までが浄化されて軽く浮遊感すら感じる。


「なるほど、凄いなこれは」


と言いながら振り向くと、何故か東方策が下に見えた。

ポカンと口を開けている。


幽体離脱して昇天しかかる漢武帝を、東方朔が大慌てで引き戻した。


「危ないですよ、そんないきなり

 いっぱい、食べちゃったら」


漢武帝は、残った4つのタネを両掌に乗せました。

その顔はまるで、マグロの味を知ってしまったネコのようです。


「こんなの食べちゃったら、もう

 普通のご飯じゃ食べらんないにゃー」


タネを持ったまま漢武帝は庭の隅に行き、穴を掘り始めた。


「何やってんです?、皇帝」


「え、いや、だからさー

 これ植えたら、また実が生るかなあって」


「んなわけないでしょう

 農業は土作りからですよ

 ましてやこれは蟠桃なんですから」


西王母がやさしく声をかけた。


「無理ですよ、皇帝

 人間界の土地は痩せていますからね

 蟠桃が根付くことはありません」


絶望的な漢武帝の顔。

今度は部屋から箱を持ってきて、大事そうにタネを仕舞い込みました。


「何時かは人間だって、蟠桃を作れるようになるかも知れないさ」


そう、何時かは。

ただ、その何時かは、科学技術が発達した時とは限りません。



「ねー、ねー、東方朔ちゃーん」


びくっ。おそるおそる東方朔が聞き返す。


「何です・・・・、皇帝」


「もー、わかってるクセにー

 あの蟠桃がまた、食・べ・た・い・なーー」


東方朔の顔が蒼ざめた。


その後、東方朔は3度ばかり、西王母の蟠桃園に忍び込んで仙桃を盗んでくるという危険任務に就いたということです。

あの孫悟空ですら、西王母の仙桃を盗み、太上老君の金丹を盗んで、500年も山に封じられたのです。

東方朔も、言わずと知れた運命。


時は下って、唐代。


玄奘法師のお供をして旅する孫悟空。

今日は玄奘のお使いで、方丈仙山までやって来て、東華大帝君に面会です。

まあ、例によって悟空と八戒がやらかしてその後始末、助けを請いに来たのですが。

(注:万寿山の五庄観で暴れて神木を倒してしまいました)


すると、どう見ても得道した仙人にしか見えない、道服を纏った少年が出てきた。

少年のなりをしていても、これは紛れもなき、東方朔。


「よー、おっさん、こんなとこに居たのかよ

 王母娘娘(ワンムーニャンニャン)の桃をくすねたそうじゃないか

 帝君のとこにゃ、お前が盗むような桃はねーだろーぜ」

西遊記、東方朔のくだり

「うっせーよ、この大泥棒が、何しに来やがった

 生憎なー、ここにゃなー、

 お前が盗むような仙丹はねーんだよ」


「ふん、ご苦労なこったなー

 お師さまにお願いして、お前もお供にしてやろうか

 もちろん、俺と豚と河童の弟分としてだがなー」


「真っ平だね、お前等こそ西天くんだりまでご苦労なこったよ」


そんなやりとりが有ったとか無かったとか。

この後、孫悟空は東方朔が淹れたお茶を飲んでいます。


孫悟空が、東方朔の仙桃盗み食い疑惑を知ってるくらいですからね。

どうやら、西王母にも全部ばれていたのでしょう。

東方朔はきっとそれで、東華大帝君の下働きをさせられていたんです。

(注:西遊記第26回「孫悟空三島求方・観世音甘泉活樹」参照)


時は下って明代。

あの漢武帝が大事に仕舞い込んだ、蟠桃のタネが発見されました。

箱には、以下のような付箋が貼ってあったそうです。


[西王母賜食武帝蟠桃于承華殿]


そのタネを計測したところ、直径が11cmもありました。

蟠桃は、ずいぶんと大な桃だったようです。

って、スイカかよ。




[メモ]


日本の仙桃伝説。

岡山県の山奥に翁(おきな)と媼(おうな)が居て、吉井川を流れてきた仙桃を食べた。

すると、翁と媼は若返ってしまった。

お二人がつい頑張ったところ、媼は赤ん坊を産み落とした。

その赤ん坊は長じて、動物をお供に鬼退治をした。


イザナギとイザナミの子の蛭子(ヒルコ)は葦舟で川に流されましたが、ヒルコが流れ着いたのが、岡山県の蒜山(ひるぜん)高原という伝説があります。

大山(だいせん)や蒜山はそんな霊峰ですから、仙桃が流れてきても不思議はありません。

桃源郷に辿り付くのではなく、仙桃が川を流れてきた理由には、恵比寿信仰があると思います。

寿桃(ソウタオ)

道教の道士は修行して得道し、仙人を目指します。

仙人のお仕事は、薬を作る事です。

そこに薬の原料の薬草が有るから、仙人とは深山渓谷で出遇うことになります。

その仙薬の究極が、太上老君の金丹であったり、西王母の蟠桃であったり。

仙人の代表格、南極老人がついている杖も桃の木ですね。

このように、桃は不老長生の象徴として扱われてきました。


不老長寿が本当に好い事かは、死んで見なけりゃわかりませんが、単に長寿であるより大切なのは不老であるように思います。


寿桃(ソウタオ)は、西王母の蟠桃を模した砂糖菓子で、古希や米寿のお祝いに欠かせない縁起物。

以前は一壽(いっしゅう)でも、桃あんまんを扱っていたのですが、残念ながら、メニューから消えてしまいました。



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